さようなら、僕の『レーザー』
フライス盤やダイサーのような機械加工装置に寿命があるように、レーザ発振器にも寿命が存在する。
その寿命が尽きる瞬間に運良く立ち会える、お客様という共通のライバルに立ち向かってきた戦友を失った気持ちになる。
一緒に自爆して敵機もろとも塵になるつもりだったのに、コックピットを開けて下ろしてくれたサンドロックをお見送りする御曹司の気持ちである。
メンテナンスをしっかりしたレーザ発振器の寿命はだいたい6-8年くらいであるが、ご長寿さんは20年30年と活躍し続けてくれる。
モデルチェンジや高性能版のリリースは2年くらいの周期なので、3世代も前になると生産性の差が大きくなるというのが主なお別れの理由になるが、最期までレーザを発振し続け生涯現役で寿命をまっとうするレーザ発振器さんもいる。
どのような別れにせよ、その瞬間は多くのエンジニアが涙し、ラボやオフィスは悲しみに包まれるのだ。
レーザ発振器さん達が迎える最期は、人類と同様に、事故死、病死、老衰がある。
老衰で最期を迎えることができるレーザは非常に稀で、ほとんどが病死となる。
レーザ発振器さんの病死を発振器内部の構成部品が壊れることと定義すると、ミラーやレンズのような光学素子だけでなく、発振器の心臓とも言える共振器、脳とも言える電子基板などの破損が該当する。
1000を超えそうな部品を複雑に制御して成り立っているレーザ発振器は、人体と同様に1つの部品に歪みが発生すると他の部品にも負荷がかかり、やがて取り返しのつかない破損や故障につながるのだ。
その結果、コア部品の交換やその後の調整に大きなコストと長い時間が必要となり、新品や別のレーザ発振器に置き換えの判断がくだされる。このような病死により生涯を閉じるレーザ発振器さんが大多数である。
次に多いのが、事故死である。
人類と同様に、自動車事故や航空機事故による事故死もある。
その他には、過電流過電圧などによる感電死、冷却が不十分なための熱中症、冷却水漏れによる水死などが挙げられる。
またエンジニアによる作業ミスでの事故死など、医療事故的な事故死があるのも人間みたいだ。
このようにレーザ発振器さんにも寿命があって、常に元気いっぱいの10代ではいられない。
納入から8年も経てば立派な高齢者であり、高性能な若者達が現れて徐々に現役から離れていく。
それもまた人間のようだ。
自身の人生をレーザ発振器さんの生涯に重ねあわせながら、今日もレーザ屋さんは粛々とレーザ加工をする。
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