ベスト・オブ・文庫本の解説!
小説が好きな人は、本編を読み終わったあとも、しっかり解説の部分まで読むと思う。解説を読むことを楽しみにしている人も多い。
わたしは、解説をそこまで重視しているわけではないが、他者の視点やちょっとしたこぼれ話が拾えたりするので、やはりセットで読みたいと思う。
解説は、あくまで本編のおまけなので、それが主役になることはない。だが、過去に圧倒的に面白い解説があった。わたしはその解説を「ベストオブ文庫本の解説」と呼びたい。
それは、浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」の解説だ。
「鉄道員」は直木賞をとったり、高倉健主演で映画化されたりしたので、知っている人が多いと思う。
どうしても「鉄道員」のイメージが強くて、その話ばかりに意識がいってしまうのだが、この作品は独立した8篇の話からなる短編集だ。
そして、この解説では、8篇の中でも特に人気のある4編について、読んだ人が〇〇派というふうに分かれるというのだ。
その4編とは、タイトル作品の「鉄道員」、それから「ラブレター」「角筈にて」「うらぼんえ」。
解説の話が正しいとしたら、わたしはラブレター派だ。今でも覚えている。卒論の発表会が他大学のキャンパスであって、たまたまその近くで独り暮らしをしていた高校の友人宅に泊めてもらった。
就寝前に、友人から文庫本を渡された。
「すぐに読めるから、この話読んでみて」
たしか『ラブレター』を指定されたと思う。今思えば、彼もラブレター派だったのだ。わたしは天邪鬼なので、泣けると言って本を渡されると泣きたくなくなる。
それなのに、涙が出て止まらなかった。貸してもらった布団のなかで、友人に気づかれないようにひとり泣いた。冷たい裏社会で生きてきた主人公が、会ったこともない娼婦からの手紙に心を溶かされる話だ。
内容をそんなに覚えていない今でも、空気感だけで少し泣きそうになる。次点が「角筈にて」。
幼いころに自分を捨てたお父さんの霊に会う。お父さんにはお父さんの事情があった。当時のお父さんと同じ年齢になった主人公は言う。「ぼく、お父さんに言われたとおり、立派な会社員になったよ!(当時、会社員は高等な職業とされていた)」。
わたしはもう泣きそうだ。泣こうと思えば泣ける。子供がつらい目に合う話は本当に駄目なのだ。ひとによって順位が変わることはあれども、「ラブレター」と「角筈にて」は揺るがないと思っていた。
その後、大学の友人、川上くんにも「鉄道員」を読んでもらった。どの話が一番良かったか聞く。どうせ「ラブレター」だろ?
なんと彼は「うらぼんえ」だった。亡くなったおじいさんが孫娘のピンチに一喝しにくる話。本当に分かれるのだ。
ぎゅっとくるツボが人によって相当違うということだろう。
いったい川上くんの過去に何があった?
そういう個人的経験も含めて、「鉄道員」の解説はずっと忘れられないくらいに面白いものだった。
※浅田次郎の小説みたいに、幽霊の出てくる話が大好きです。わたしが書く物語にもかなりの確率で幽霊が出てきます。
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