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3つのイジメの話でつながる「闇バイトの首謀者」の顔

都内のごちゃごちゃした飲み屋街、その平均値をとったような居酒屋で友人と話をしていて、ふっと「闇バイトの首謀者ってこんな人かもしれないな」とその顔が見えたような気がした。

3つのイジメの話を経て、そこにたどり着いた。

きっかけは、居酒屋で流れていた工藤静香の曲。

「目と目で通じ合う かすかに ん…色っぽい」。サビがとても印象的な曲だ。曲のタイトルは知らなくても、このフレーズはみんな知っているはず(タイトルは「MUGON・ん・・・色っぽい」※覚えられない……)。

この曲がスイッチとなり、わたしの記憶は高校時代の学園祭へとつながる。

ケース1:ネズミ男(イジメは成功し、犯人は笑う)

学園祭のイベントのひとつにカラオケコンテストがあった。

クラスからひとり代表者が選ばれる。選ばれた人間は、体育館の壇上から、全校生徒に向けて歌わなければいけない。これはけっこうキツい。

立候補で決まったクラスもあるだろうが、多くの場合は罰ゲームの様相を呈した。

カラオケコンテストの当日、参加者の中で、ひときわ目を引いた人物がいた。他クラスのS氏。

以前、クラスが同じだったことがあるが、おとなしくて、どことなくネズミ男に似ている彼は、狂暴な同級生からよくいじめられてた。

そのS氏が歌い出した曲が、工藤静香だったのだ。「目と目で通じ合う かすかに ん…色っぽい」。

曲と歌い手のギャップがありすぎる。会場は大爆笑。わたしも普通にゲラゲラ笑った。「馬鹿だなあ」くらいにしか思っていなかった。別の角度から考えられるようになったのは、かなり時が経過してからだ。

あれ、絶対に脅されてるよな……。本人が進んで選曲するわけがない。黒幕がいる。誰かはわからないけれども。

これは変則的なイジメだ。犯人が手を汚さないイジメ。

その話からわたしは、また別の出来事を連想してしまう。イジメの標的は、わたしだ。

ケース2:生徒会長の変(イジメは道半ば、犯人は無表情)

小学校5年生のときだったと思う。学校は、次の生徒会長を決めなければならず、クラスルームのときに、先生がみんなに向かって「生徒会長に立候補したい人、もしくは推薦したい人はいないか」とたずねた。

誰もいなければそれで済むはずだった。それなのに、Mという男が突然「〇〇くん(わたしの名前)がいいと思います」と発言した。

意味が不明だった。Mは野球クラブに入っていて、クラスの中でいきっている存在。嫌なやつだと思うことはあったが、普段の接点があまりにもない。

わたしはアホだったので気づかなかったが、イジメを仕掛けられていたのだ。周りからはわかりにくい、変則的なイジメ。

立候補者には、応援者がふたり付く。応援者には、クラスのイケてない人間が選ばれた。工藤静香と同じ構図。Mは、体育館での立候補スピーチでわたしを笑い者にしたかったのだ。

授業のソフトボールで、わたしが進んでピッチャーをしたのが気に食わなかった。野球クラブの俺の前で目立とうとするんじゃねえ。

はたしてMはこの企てによって笑い転げることができたのか?

イジメだと気づいていないわたしは、当日、面倒だと思いながらも、演壇で、さらっと心のこもっていないスピーチをした。応援のふたりは「わたしは〇〇くんを応援します」とひとこと言うだけ。

こんなの何も面白くない。見ている側もリアクションのしようがなかった。投票の結果、別の人が生徒会長に選ばれたのでほっとした。

わたしは居酒屋で、友人にその話を続けた。「あいつ、むかつくわ。俺がみんなの前で失敗すると思ったんだろうな」

話しているうちに本当にむかついてきた。「自分の目論見が外れて、どう思った? 恥ずかしいと思わないのか。おまえは今どんな人生を送っている? 呼び出して延々と説教したい」

友人が「……呼びだして、説教までしなくていいんじゃないか」と言った。
「ん?」
「いや、実は、今の話を聞いて思い出したことがあって……」

ケース3:政治の失敗(イジメは失敗し、犯人は記憶を失う)

封じられていた記憶の扉が開かれ、友人は語り出した。

「……中学のころ、俺はちょっといきっていて、イケてないやつを馬鹿にしていたんだ。学園祭で劇をすることになったとき、イケてないやつを主役にしたら面白いんじゃないかと思いついた」

おお、ここまでの犯人側の視点じゃないか。

「俺、みんなに言ってまわったんだ。あのイケてないやつを主役にしてやろうぜって。みんなも面白がってくれているものと思っていた。だけど、ふたを開けてみたら違った。投票の結果、主役に選ばれたのは俺だった」
「…………」

「みんな、裏で話し合ったんだと思う。『あいつ、ひどいこと言ってるよな。あいつのほうを主役にしてやろうぜ』って」

なるほど。わたしは、これは政治の失敗だと思った。票をコントロールしていたつもりが、できていなかった。別勢力に寝首をかかれた。政治の世界でよくある話だ。

「そのあとはどうなったの? どんな気持ちで劇をやったとか」
「いや、まったく覚えていない。投票の後のことは本当に記憶がない」

そんなことあるだろうか。記憶が消えるくらいショックだったということか。

わたしはかける言葉が見つからず、フォローの言葉を探した。
「……まあ、よかったんじゃないの。そんなのが成功してたら、ろくな大人になってなかったと思うよ」

そう言いながら、ふっと、今話題になっている闇バイトの首謀者の顔が見えた気がした。

彼らは……、成功しちゃった人たちなんだろうな。

自分は闇に隠れ、他人を陥れて、笑い転げる。人生の早い時点で、そういう快楽を知ってしまった。

長い目で見れば、こずるいイジメなんて成功しないほうがいい。

わたしが嫌いなMは、説教の必要がないのかもしれない。

心配なのは、わたしが知らない工藤静香プロジェクトの人たち。

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