逆メガネマン誕生秘話
別に信じなくてもいい。10代、20代のころ、わたしはただのイケメンだった(今でも!)。だからといってモテるわけでもないので、あまり関係なかった。
今回、問題にしたいのは勝負の30代の話だ。何の勝負かはよくわからないが、わたしはたぶん無敵のロックスター状態になりたかった。ロックスターの定義はこちらを参照してください。
わたしは普段メガネをかけている。20代まではコンタクトだったが、だんだん面倒になってきてメガネが定着しはじめた。
わたしは顔が薄いので、ビジュアルがメガネの印象に引っ張られる。勝負の30代、メガネ選びはたいへん重要なイベントだった。
わたしには戦略があった。それは自分で選ばないこと。
自分が気に入るかどうかにこだわってはいけない。自分の顔を見るのは他人なのだから、他人が見たときに、特に異性が見たときに魅力的であればそれでいい。
この作戦は完璧に思えた。わたしはそのとき、今の奥さんにメガネを選んでもらった。
いろいろ試着してみて、奥さんが選んだのは、フレームが片側だけに付いたタイプ、しかも、通常は上側にフレームが付いていると思うが、あえて下側に付いたものだった。いわば、逆メガネ。
え、これですか?
あまり見ないタイプだけど、本当に似合ってますか?
と思ったが、当初の作戦に従った。彼女は美大出身の人なので、感覚がときどき特殊なことがある。少々気にならないこともなかったが、わたしは他人のセンスに乗っかった。
そして、その日を境に逆メガネマンとして生きることになる。
こういうアイテムに限って、やたら長持ちするというか、壊れないというか。わたしは勝負の30代を逆メガネマンとして過ごした。
どんどん他人はわたしを逆メガネの人として認識していく。家族もわたしが逆メガネマンになったと思った。
誰からも特に、似合っているとも似合っていないとも言われなかった。わたしもときどき鏡を見たときに「なんで逆なんだろ?」と思いはしたが、特段不自由はなかった。
だが、均衡を破った人間がいた。奥さんだ。
そのメガネ、なんかむかつくと言い出した。
「誰が選んだメガネだ!」わたしは抗議したが、奥さんは「そのときは似合うと思った」と悪びれもなく言う。
時間を置き、またメガネむかつくがはじまり、誰が選んだメガネだ! からの一連の流れがあり、さらに時が流れ、さすがに逆メガネの寿命が来たため、逆メガネマンは消滅した。
いったい、逆メガネマンという存在はなんだったのだろう……? 誰に迷惑をかけたわけでもないが、本人も含めて誰からも望まれず、誰からも愛されなかった。
あえて言えば、なぜ逆なんだろうと、みんながほんのり不思議な気持ちになった。誰も解けないミステリー。わたしはロックスターになれなかった。
別のメガネ話はこちら(↓)
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