夜にシュレッダー
2.3日前の話である。
22時過ぎ。そろそろ寝ようと思いベッドに入ろうとした時だった。どこからかポンっポンっと妙な音が聞こえてくる。
施設では22時になると廊下の空調が止まるので、夜はよけいに周りの音が響くのだ。
何の音だろうと気になって、急いで廊下に出てみる。どうもその音の正体は、向かいにある女子の洗面所のようだった。
躊躇いもなく洗面所に入り、さらに耳をそばだててみると、水道の水がどこかでポタポタとたれ落ちていることが分かった。
そういえば先日男子の洗面所でもお湯が出っぱなしになっているという事案が発生したばかりだった(すぐにパッキンを修理してもらい解決したようだが)。もしかしたら女子の洗面所の方にも少しずつ異常が出てきているのかもしれない。
そういえば一昨日も、施設の修繕工事でトイレの配管をいじったからか、夕方女子の洗面所がアンモニア臭に見舞われるというまさかの事態が発生したばかりだった。これはもう少し様子を見て、まだしばらくこの水音が続くようなら職員に報告した方がいいかもしれないと思った。
妙な音の正体が分かり、ほっとしながら部屋の入り口まで戻ってきたところで、こんどは少し離れた談話室か職員室に人が居るのを感じた。
きっと利用者の誰かが談話室で夜食のカップラーメンでも作っているのだろうと思っていると、間もなくしてシュレッダーで紙を細かく切り刻むような音が聞こえてきた。
シュレッダーがあるということは、人が居るのはたぶん職員室だろう。
この時間に施設に居る職員といったら、それぞれの階の宿直、あるいは管理宿直の職員しかいないはずだ。
こんな夜にシュレッダーをかけているなんて、いったい何があったのだろうか。よほど見られたくない個人的な書類を切り刻んでいるに違いない。
例えばそれは別れた恋人からの手紙や写真かもしれない。
そういえばスキマスイッチの「きれいだ」の1節に、♪君がくれた手紙を一つずつ紙飛行機に変えながらただ願うんだできるだけ遠くへ飛べ♪というフレーズがある。
きっとあんな感じなのだろう。別れた恋人からの手紙を紙飛行機にするならまだかわいらしいものだが、それらをシュレッダーにかけて粉々に切り刻むのである。恐ろしさを感じると同時に、そうしたくなるほどの悲しみをお察しする。
そうそう、それで思い出すのがユーミンの「あの日に帰りたい」の歌い出し、♪泣きながらちぎった写真を手の中で繋げてみるの♪というフレーズを聞いて、「えっ、写真ってあんな堅いのにちぎれるの?!てかどうせ手の中で繋げるならちぎる意味なくない?」と子どもの頃母の車の中でこの曲を聞いてよくそう思ったものだった。
泣きながらちぎった写真なら手の中で繋げられるかもしれないが、泣きながらシュレッダーにかけた写真はさすがに手の中では繋げられないだろうなあ。
と、そんなことを思いながら部屋に戻り眠りについたのだった。