自分の書いた物語が、誰かの心にそっと溶け込む瞬間
年が明けてから二日目の夜のことだった。
配信ちゅうに何度も電波が落ちたり、スパムコメントを打ってくる人が乱入してきたりと、何かとハプニング続きだった新年初のツイキャス配信をどうにか終えて、溜まっていたiphoneの通知を何となく眺めていた。
すると、たまにツイキャス配信に遊びに行かせてもらっているTwitterフォロワーのtちゃんから、久しぶりにdmが届いていた。
たぶん新年の挨拶メールだろうと思いながら、そのdmを開いてみると、新年の挨拶に加えて、第2回ステキブンゲイ大賞にもエントリーしている短編『図書室の井口先生』を、冬休みの作文の宿題の題材に使わせてもらったという、予想外の嬉しいことが書いてあったのだ。
以下tちゃんに許可を得た上で、その作文をご紹介させていただきたい。
私は、今回羽田ひかさんという方の、「図書室の井口先生」という小説を読みました。
これは、クラスメイトからのいじめが原因で、学校を1日ずる休みしてしまった小学4年生の水野唯さんと、彼女の苦手な図書担当の井口先生が登場する物語です。
唯さんが休んだ日に行われた調理実習で、他のクラスメイトや担任の先生は食中毒になってしまったため、井口先生と二人きりで過ごした唯さんの1日が描かれています。
私がこの小説を読んで最も感動した場面は、井口先生に自分の悩みを相談し、慰めていただけたことをきっかけに、唯さんの先生に対する感情が、「苦手」から「もっと話したい」に変わったところです。
私は、最初井口先生と二人きりで1日過ごさなければならないことにとても怯えていた唯さんが、勇気を出して自分の悩みを打ち明けてみたら、先生との会話を楽しめていたので、その大きな変化に心を打たれました。
そして、このことから、「苦手だと思っている人とも頑張って会話を続けてみたら、自然とその人と話すのが楽しいと感じられるようになることがある」ということに気づきました。
なので、私は今まで父親とうまくコミュニケーションが取れなくて困っていましたが、話しているうちに会話が楽しいと思えるようになる日を信じて、これからもっと積極的に父親に話しかけたいと思いました。
図書室の井口先生 #ステキブンゲイ
https://sutekibungei.com/novels/b9844111-fb5b-430d-9ee9-15b43e2f8b8a
この短編はもともとエブリスタで開催されている「妄想小説コンテスト」の「ドアを開けたら」のお題で、8年ぐらい前に書いた物だった。
自分でもかなりの自信作だったのだが、残念ながら賞には引っかからなかった。
それを昨年手直しして、こんどはカクヨムウェブ短編賞に応募した。
その手直しの際、井口先生の関西弁の台詞のチェックを、大阪のスカイプ仲間の知人におねがいした。
そこまで気合を入れて応募したカクヨムウェブ短編賞だったが、文字数1万文字のところを1000文字ほどオーバーしていたため、審査対象外になってしまった。
それらのリベンジを果たすべく、今回第2回ステキブンゲイ大賞に応募したのだ。
そんな短編に、こんなにも素敵な感想をいただけるとは思わなかった。
tちゃんからのdmを読み終えた時は、涙が出るほど嬉しかった。
『葵ガ岡盲学校中学部は今…!』や、『シーソーが揺れてる』や、『涙なんか』など、ステキブンゲイで投稿している他の作品のように、この『図書室の井口先生』は、総合ランキングにもランクインしていなかったし、コメントなどの反応も無いので、あまり読まれていないのだろうと思っていた。
tちゃんともツイキャスでたまに一緒になるぐらいの関わりだった。
そんなtちゃんが、私のTwitterのプロフィールから、ステキブンゲイのサイトに飛んで、作品をチェックしてくれていたとは思わなかったので、そのことにもとてもビックリした。
意外な人が読んでくれていたんだなあ。
ほんの思いつきで書いたようなこの物語が、父親と話すのが苦手だと言うtちゃんの勇気になったのだ。
自分の書いた物語が、誰かの心にそっと溶け込む瞬間を見たような気がした。
そうか、この一瞬のために、去年のあの1年があったんだなあ。
tちゃんからのdmのおかげで、正直納得がいかないことばかりで、自分のやりたいこともなかなか思うようにできなかった去年の1年が、ようやく救われた。
詩や物語を書いているだけの私など、きっと誰の何の役にも立たないだろうと思っていた。
それでもたった一人の誰かの心に、ほんの少しだけ気づきや勇気を与えることができたのだ。
私はこれからも物書きでいて良いのかもしれない。
私が書く言葉が、誰かの心にそっと溶け込む。
そしてそれがほんの少しの気づきや勇気になる。
その一瞬のために、これからも書き続けていけばいいのだ。
ありがとう。この気持ちを忘れずにいたい。