意外とだいじょうぶかもしれない~名古屋に行った日のこと~その3
二人になった私たちはドトールに入ることにした。
ドトールも人がたくさんだったけれど、さきほどのうまいもん通りやエスカよりは空いていた。
それぞれ飲み物を注文して、店員さんに席まで運んでもらったのだが、その店員さんが視覚障碍者のガイドヘルプに慣れていないらしく、入り口の方に行ってしまったり、壁にぶつかりそうになったりと、私たちもどう動いたらいいのか分からずにあたふたしていた。
すると、
「空いてる席座りますか?」
と、お客さんらしき男性から声をかけられた。
「あっ、はい」
戸惑いながらそう答えると、その男性が席まで連れていってくれた。
駅員さんや店員さんだけではなく、周りのお客さんにも優しい人は居るんだなあと改めて気づかされた瞬間だった。
ところで私とtさんの共通項は、ラジオ好きであることと、ジッピー(ZIP-FMのリスナー)であることだ。
ドトールでお茶しながら、tさんがZIPのジェイムスさんの番組のノベルティグッズ、『ゴールデンJボール(通称金玉)』を触らせてくれた。
それは神社で売っているお守りが入っていそうな小さな布袋の中に、小さな玉が二つ入っているだけの物だった。
それは創造していた物とだいぶ違った。
ゴールデンJボールというぐらいだから、私は大きな金色の玉がドドンと1個ぶら下がっているのだろうと思っていた。
でも玉が二つというのがみそなのだろう。
だから●●なのだ。
何ともジェイムスさんらしいグッズだった。
ドトールを出た後は、私の夕食を兼ねた天むすを買うために松坂屋に向かった。
だがここで予想外の出来事が起こった。
「じゃあ俺改札すぐそこだから」
と、松坂屋のスタッフに誘導をおねがいしたところで、tさんともお別れすることになってしまった。
とうとう名古屋駅には私一人だけになってしまった。
どうしよう。
ものすごく心細いけれど、ここまできたら松坂屋のスタッフに委ねるしかない。
でも心細く思うことは不要だった。
松坂屋のスタッフの慣れた誘導のおかげで、5個入りの天むす(白米の方)をスムーズに買うことができた。
5個入りと聞いたので、一人では食べきれないだろうなあと思ったけど、1個が小さかったので、小食の私でも全部食べられた。
思っていた以上に美味しかった。
誘導してくれた松坂屋のスタッフさんが女性だったので、帰りの新幹線に乗る前にお手洗いに寄ることもでき、そのまま駅の改札の人に繋いでくれた。
でもその改札の人の対応というか喋り方がちょっと冷たいように感じた。
改札口で誘導してくれる駅員さんを待っている時に、なぜかパイプ椅子が出てきた。
たまにそのような対応をされるのだけれど、全盲なだけなのになぜ椅子を出されるのかがずっと謎である。
杖を持っているからだろうか。
座る必要もないので丁重にお断りさせてもらった。
当初の予定よりもだいぶ早い14時43分発のひかりに乗ることができた。
新幹線に乗ってから少しすると、またスカイプの着信音が鳴った。
行きと同じように、mちゃんがグル通を上げてくれたのだ。
このグル通は全員が自宅に着くまで続いた。
帰りもやはり30分ぐらいで浜松に着いた。
でもここからが長いのだ。
最後の超大物難関、バスで約50分かけて一人で自宅に帰らなければならないのだ。
「すみません、遠鉄バスに乗りたいんですけど、バスターミナルまで行ってもらえますか?」
改札を出る時に、思い切って誘導してくれている駅員さんに言ってみた。
「北口のところまでしか行けないんですけど、そこまででもいいですか?」
非常に嫌な予感がする。
でもそこまでしか行けないのなら仕方ない。
結局一つめのエスカレーターのところまでしか行ってもらえなかった。
バスターミナルに行くには、もう一つエスカレーターに乗るのだが、そのエスカレーターがどこにあるのかが分からないというか、もう何年も駅の中を一人で歩いていないので忘れてしまった。
すぐ近くにあるのは分かる。
でもそこまでどうやって行けばいいのかが分からない。
仕方ない、記憶を頼りに歩くしかないか。
そうして白杖をつきながらうろうろしていると、
「どこか行かれますか?」
とすぐ近くで女性に声をかけられた。
「すみません、バスターミナルに行きたいんですけど、エスカレーターのところまで連れてってもらえませんか?」
その女性のおかげで、バスターミナルに続くエスカレーターに乗ることができた。
このエスカレーターを上れば、バスターミナルの中は一人でも歩ける。
ここ1.2年コロナの影響で、困っている視覚障碍者に声をかけてくれる人が少なくなったというのも、一人で外出するのが不安な要因の一つだった。
でもそんな今でも、声をかけて助けてくれる人は居るんだなあと身をもって実感できて嬉しかった。
意外とだいじょうぶかもしれない。
mちゃんたちとのグル通を繋いだまま帰りのバスに揺られながらそう思った。
さすがに20代の頃のように、毎日1時間以上バスに乗って仕事に出られる自信はまだないけれど、それでもたまになら一人でもバスや電車に乗って外出できそうな気がしてきた。
思っていた以上に、人間は優しかったということを、今回の名古屋日帰り旅行で感じられたから。