Single-cell lineage capture across genomic modalities with CellTag-multi reveals fate-specific gene regulatory changes
本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」は?
この研究は、細胞のアイデンティティ(特性や役割)の定量化が丁度な発達・疾患・ホメオスタシス(生体の恒常性)の理解に重要であるという背景から行われています。しかし、細胞のアイデンティティの定義はまだ明らかになっていません。そのため、本研究では細胞のアイデンティティの形成と維持における役割を明らかにするために、各種単一細胞の系譜追跡法(各細胞がどのように経過し進化するかをトレースする手法)を用いています。
本研究の目的及び学術的独自性と創造性は?
本研究の目標は、単一細胞のRNA配列解析や単一細胞なクロマチンアクセシビリティ解析といった手法を用いて、固有のDNAバーコード(遺伝情報)を通じてクローン(同一の細胞)間の関係を追跡し、その細胞の状態と遺伝子発現を追跡する新しい手法、「CellTag-multi」を開発することです。この手法は従来のCellTagging技術を基にしており、これにより遺伝情報とクロマチン状態(遺伝子がどの程度開いていてアクセス可能か)の両方を追跡できるようになるため、独自性と創造性があります。
本研究の着想に至った経緯や,関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけは?
現在、単一細胞技術が急速に進化し、多様な手法が開発され、細胞のアイデンティティ形成と維持の理解が深まってきています。それに伴い、細胞の系譜(起源や発生過程)を追跡する手法も開発されており、細胞がどのように分化や再プログラミング(細胞を別の種類の細胞に変えること)を行っていくのかを明らかにするために用いられています。本研究は、これらの動向を踏まえ、特に遺伝情報とクロマチン状態の両方を追跡可能な新たな手法を提唱しています。
本研究で何をどのように,どこまで明らかにした?
これまでの研究では、遺伝子発現の変化は細胞の状態や運命を反映するものと考えられて来ました。しかし、それだけで未来の細胞の状態を完全に予想することは難しいという結果が得られてきました。そこで本研究では、細胞の遺伝子発現とクロマチンアクセシビリティ(遺伝子がどの程度開いていてアクセス可能か)の両方を見ることにより、更に正確な細胞の状態を予測することを試みました。その結果、新たな手法「CellTag-multi」により、遺伝子の発現とクロマチン状態の両方を総合的にとらえることで、細胞の系譜とそれが細胞のアイデンティティにどのように関与するかを正確に追跡できることが明らかになりました。また、この手法を用いて、細胞の再プログラミングにおける早期の遺伝子規制の変化を特定し、それが再プログラミングの成功にどのように影響するかを解明しました。
本研究の有効性はどのように検証した?
本研究では、単一細胞のRNA配列解析とクロマチンアクセシビリティ解析の両方で「CellTag-multi」を用いて得られたデータを用いて手法の有効性を検証しました。具体的には、マウスの造血系(血液細胞を生成する系)の研究や、細胞の再プログラミングの研究など、既知の生物学的プロセスを用いて手法の精度を評価しました。
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