産地×品種×火入れの掛算|香りの新体験を届ける「香駿」
<作り手について>
国内最大の茶生産地は静岡県。
しかしここ数年、同県の生産量は毎年10%前後の減少が続き、その産出額(生産量×価格)にいたっては、3年連続で20%程度の下落。
30年前のピーク時と比較すると、その額は70%も落ち込んでおり、産出額の下落は深刻な状況です。
主な要因は、ライフスタイルの変化によるリーフ茶葉の需要低下や、ペットボトル需要の高まりによる単価の下落(ペットボトル緑茶が発明されたのが、ちょうど約30年前です)
そして市場ニーズの変化以外に、私自身が産地を巡っていて感じる別の問題も。
それは、山間地域におけるお茶づくりの労働負荷の高さ。
当店では、良質な茶葉に本来備わる「山の香り」を大切にした商品づくりをおこなっており、そのためには静岡の山間地域で摘採される品質の高い茶葉が不可欠です。
標高の高い場所にある茶畑は、周囲を山々に囲まれ、寒暖の差が激しく、お茶づくりには最適な環境です。
一方で、該当する茶畑は急傾斜地である場合も多く、その作業負荷は高い。乗用型機械の導入も困難なため、「品質は良いが手間のかかるお茶づくり」になります。
残念なことですが、これまで当店とお付き合いのあった山間地域の生産者さんの中にも「高齢のため茶畑を手放す」という方が少なくありません。
高品質な茶葉の需要減と急速な価格下落。
対価に対する労働負荷の高さ。
これでは、先述した静岡県の茶生産量や産出額の今後予測を変化させることは容易ではありません。
ところが、そんな現状のなかでも「静岡茶の未来を変化させる!」と活躍される、ひときわ元気な茶農家さんがいらっしゃいます。
それが、静岡県の両河内にある豊好園さんです。
豊好園さんのモノづくりについては、こちらの記事にて詳しくご紹介しています。
<モノづくりについて>
今回のお茶は、単一品種・単一農園のシングルオリジン。
「じゃあ、豊好園さんでも同じモノを売っているの?」と思われるかもしれませんが、原料となる茶葉は同じでも、仕上げ工程が異なっています。
今回は、私たちの商品のオリジナリティである京都・宇治田原町での火入れ(ひいれ)についてご紹介します。
火入れとは、お茶づくりの最終工程で、100℃を超える熱を茶葉に加え、焙煎香と呼ばれる優しく甘い香りを引き出します。
火入れ技術は完成品の出来を大きく左右します。
とりわけ香りについては、この技術がそのまま商品特性に直結します。
焙煎香は強ければ良いというものではありません。
茶葉に備えられた青々しさや茶葉毎に異なる特性を残しつつ、どの程度まで、甘く香ばしい香りを閉じ込めていくのか。
良い茶畑と生産者、そして良い茶葉を的確に合組(ブレンド)しても、この火入れがうまくいかなければ、茶葉の個性を活かした商品にはなりません。
そのため当店では、全国の茶畑より仕入れた茶葉を宇治田原町の提携工場に集め、50年以上にわたって東京繁田園オリジナルの火入れをおこなっています。
ところで、東京に店を構える私たちが、なぜわざわざ京都・宇治田原町で火入れ作業をおこなうのか。
ここには歴史的な背景があります。
現在の日本緑茶は、1738年、永谷宗円という人物による「青製煎茶製法」の発明から世に広まったとされます。
宗円は15年間の研究を重ね、味も香りも従来のお茶より圧倒的に良いお茶づくりを成功させますが、その発明の地が京都・宇治田原町なのです。
歴史があれば美味しいお茶がつくれるわけではありません。
しかしその一方で、確かな技術は歴史とともに向上するものでもあります。
事実、発祥のときより長い時間をかけて切磋琢磨し、磨きあげられた宇治田原町の火入れ技術は、国内屈指のレベルです。
その宇治田原町の中にあって、当店と長い時間をかけて積み上げてきた提携工場との信頼関係は、間違いのないお茶づくりに欠かせない要素です。
<プロダクトについて>
さて、皆さんへお届けする「香駿(こうしゅん)」
何よりも、品種の名前にもなっているその個性的な香りを体験していただきたいお茶です。
ハーブ、蘭の花、シナモン、柏の葉など、感じ方や表現方法は異なれど、爽やかな、そして華やかな甘い香りが最大の特徴です。
力強くはないものの、口に含むとゆっくりと広がる繊細な香り。
「この香りは何に似てるだろう?」とその印象を探しながら楽しむのもおすすめです。
さらにもうひとつ、今回の「香駿」の忘れてはならない個性は、存在感のある自然由来の渋みです。
これは近年の商品づくりの傾向とは正反対の特性です。
最近の一般的なニーズは、鮮やかな緑色を演出し、旨味を残し、そして渋みはできるかぎり抑えること。
しかし、この香駿は真逆。
色は薄く、爽やかな旨味を備えた品種ながら、嫌味ではないが確かな渋みを感じます。
世間のトレンドとは逆行した商品かもしれません。
それでも当店がお届けしたいのは、「香駿」の控えめながらも芯の通った個性。
良質な茶葉に備わる旨味をベースにしつつ、その華やかな香りからは日本茶の新たな体験を。
自然由来の柔らかな渋みからは、どこか懐かしい原点回帰の印象を。
一杯の湯呑みの中で、これら個性の共存をお楽しみいただける商品です。
<販売ページのご案内>
こちらのページにて販売しております。