【エクソシズム・チャンピオン、地獄に消ゆ】
地獄の灼けた風の中、スカートのはためきをギギは感じる。今やこのセーラー服すら、親方との絆の拠り所だ。
身の丈3m、鶏頭の鬼が向かい来る。ギギは身を屈め、鬼の股下をすり抜けた。そして脚に組み付き、後ろへ倒れながら投げた。親方直伝、スープレックス。灰色の大地に、赤銅色の巨体が衝突した。
ギギの脳裏に親方の記憶が蘇る。強烈なラリアット。温かい握手。鬼祓いショーの日々。優しい親方は、人類と地獄が開戦した日、書置きを残して消えた。
「俺が祓ってくる」
鶏鬼が身を起こす。嘴から溢れた血が赤銅色の乳房に垂れた。その目が紫に光る。邪眼だ。ギギは咄嗟に回避。汗の飛沫が眼光を受け、空中で石化した。
イサがじれる前に倒さねば。身構えたギギの、耳元で
「飽きちゃった」
酷薄な声がした。
白い狩衣を着た、涼しい目元の美少年がそこにいた。少年は——イサは、空中に指を走らせる。その軌跡に白い光が残り、存在しない漢字が浮かぶ。歪んだ《門構え》に無数の《犬》の文字。
《犬》の字の1つが強く輝き、膨張し、山犬の形になった。光犬は鶏鬼へ襲いかかる。そして左腕に噛みつくと同時に、爆発した。白い炎が収まると、鶏鬼の左半身は焼け爛れ、左腕は消滅していた。
親方の息子なのに、イサは倫理観ゼロのド畜生だ。だが親方の救出に、この強さは必要――
イサが指を構える。
殺す気だ。
ギギは地を蹴った。瀕死の鶏鬼を掴み、渾身の力で垂直に跳ぶ。上空で鶏鬼の首に組み付き、頭から急降下した。
必殺、飯綱地獄落とし。
ギギは己の頭で衝撃を受け止め、巨大なクレーターを作った。土煙の中、鶏鬼を寝かせる。鶏鬼の訝しむ視線に、口の動きで「死んだふり」と答えた。
親方の不殺は、私が守る。
穴から這い上がると、イサは掌に小さな光犬を乗せていた。ギギを見て言った。
「餓鬼の集落を見つけたよ」
イサの瞳に澱む由来不詳の悪意に、ギギは総毛立つ。だがスカートを握り、イサを真っ直ぐに見返した。
【つづく】