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【電網道中飛脚之記】

 ダンゴムシに似た装甲車が、轟音と共に道を過ぎる。風圧にカケルはよろめいた。輸送データが大金になるにしても、あれを襲うハンター達は正気じゃない。

 カケルはUSBメモリを片手に図書館へ急ぐ。すれ違うスーツの男は、頬に傷跡。学校をサボるカケルを、見咎める良識は絶滅して久しい。

 寂れた図書館は利用者ゼロ。当然、パソコンスペースも無人だ。埃を被ったPCが墓石のように並ぶ。ネットは死に、代わりにダンゴムシが走る。

 カケルは端末を起動。「蔵書検索」「よい子の辞典」は無視して、ブラウザを開く。そしてメモリを両手で握り、目を閉じた。波音のようなノイズが聞こえ、目蓋に青い光が浮かび――

 晴天。喧騒。肌を撫でる風。カケルは町屋の並ぶ街道にいた。よい子の辞典で調べたから、ここが近世の宿場町を模していて、己の姿が飛脚だと分かる。

 空中を青い光が流れる。データ・トラフィック。その流れを、往来する異形の群れが遮る。

 宙に浮かぶ「今すぐクリック」を天狗がつつき回す。狐が件名「賞金当選」の封筒を頭に乗せて、小判に変える。地面を生首が転がり、轍のように広告がポップアップする。

 乱痴気騒ぎは青い光を遅延させ、霧散させた。その合間を縫って、飛脚だけが1Gbpsで駆ける。担ぎ棒の先にデータ箱。貴重な小遣い稼ぎだ。

「貴様、嗤ったな!」

 足を止めた。道の端、頭が山椒魚の町娘に、着流し姿の琵琶が詰め寄る。

「この顔は生まれつきです!」

「問答無用!」

 刀に手をかける琵琶の頸を、カケルは背後からへし折った。異形たちは総じて脆い。琵琶は声もなく倒れた。

「有り難う御座います」

 山椒魚は礼を言い、黒い目でカケルを見た。そして……不意に担ぎ棒を叩き落とした。

「何を――」

 ボン!

 破裂音。地面でデータ箱が火を吹いた。

「こっちです!」

 呆然とするカケルの手を引き、山椒魚は走り出す。白魚のような指の、その柔らかさに、カケルは頬を赤らめた。


つづく

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