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800文字プラクティス#05【気狂い珠子の超常捜査簿】

 同期の物部は、今どき怖い話の蒐集が趣味の変人だ。空き教室を占拠して、一人で“都市伝説研究会”を称している。

 僕はノックをして、その教室に入る。机を撤去し、小さめの教室を本棚で二分割していた。薄暗く、何故か照明は点かない。そして腥い不快な臭気が漂う。

 本棚のこちら側は無人だ。

「昨日連絡した稗田だけど」

 返事どころか、物音が一切無い。不在かな。帰ろうかな。

 だが、僕は先日体験した怪現象を、とにかく誰かに話してスッキリしたかった。物部に友達はなく、口外の心配がない。

 意を決し、本棚の向こうに踏み込む。悪臭が強まる。カーテンが半開きで、ソファとテーブルに光がさしている。ソファに人影。

 物部だった。苦痛に歪んだ顔。腹が切り開かれ、ローテーブル上に内臓が並ぶ。空の腹腔はかなりスッキリして見えた。遅れて恐怖がこみ上げる。

「ヒッ」

 叫ぼうとした口を塞ぐ手。死角から襲われた。本棚に押し付けられる。そいつは内ポケットから何かを取り出し、僕に広げて見せた。

「私は山崎珠子、公安だ。死にたくなければ騒ぐな」

 死にたくない。パニックになりながら必死に頷く。手が口から離れた。

「貴様は誰だ?」

「稗田です……さっき言いました」

「フン、試しただけだ」

 スーツ姿の女性だった。そして手には黒い手帳、を模したカバーのついた、ポケット電卓。

 いかれてる。

「今は避難が先だ。来い」

 山崎は部屋の入り口へ向かう。

 付いて行きたくない。でも部屋からは出たい。途方に暮れ、死体に目をやる。と、テーブル下から日本人形が這い出すところだった。その手に血濡れたカッターナイフ。

 人形は僕へ飛びかかる。だが革靴が蹴り飛ばした。山崎が戻ってきていた。山崎は床に落ちた人形を踏みしだく。

「怪異め、FBIを甘く見たな」

 山崎は懐から出した銀色の何かを人形に向ける。まるで銃を構えるように。短い棒状のそれは、ペンのようにも、銃身のようにも見えた。

つづく


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