あの日の続き
目が覚めると隣に彼女がいる。私は荷造りを怠ったらしい、これから出かけると言うのに。急いで荷物を詰めて、彼女の手を握りしめて車に乗り込んだ。運転手の顔は見えない。
私の肩ですやすやと眠る彼女からは紅茶に合いそうな甘い匂いがする。窓から差し込む陽に照らされる彼女はまるで絵画の中のようで、思わずシャッターを切る。頬を撫でて、そのやわらかさにドキリとする。脆くて、儚くて、今にも潰れてしまいそうで。触るのを辞めた。
窓の外には海が広がっている。岩の隙間から顔を出した夕暮れがあまりに美しいから、彼女を起こすことにした。目を覚ました彼女の瞳が写しているそれを眺めていた。くるりと上を向いたまつ毛、未だ少女的な顔立ち。いつだって彼女にしか焦点が合わない、あの頃の私には彼女の眼を通した世界だけでよかった。それだけが真実だったような気がしたから。
私の方を向いて笑いかける彼女がいた。
ある日の夢の話。そしてある日の、続きの話。
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