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孤独の向こう側で、あなたに会えるなら


毎日50作品に目を通していたらしい岸田さんほどではないけど、私は、1日につき、キナリ杯の作品を10~15作品程度読んでいた。読みながら、そして自分のものも書いていた。毛色が違いすぎると思いながら書いていた。

もっとふわっとしていたほうがいろんな方に楽しんでもらえるのかなと自問自答したのだけど、今回読んでもらいたい相手は岸田奈美さんただ一人!と決めて、自分を貫きとおすことにした。

結果、キナリ杯はえげつない文章量になった。

図版を挟んで誤魔化すふうを装っているけど、9200字強くらいある。改行を増やすと延々スクロールし続ける羽目になるから、岸田さんの指の消耗を少しでも抑えようとギチギチにした。エグい。指に配慮するより目に配慮するべきだったのかもしれない。

「おもしろいものが読みたい!」という私設コンテストだから、自分の中で振り切れたものを書こうと思った。だから当初はハニレモにしようかと考えたのである。私のお気に入りの三浦界の顔面を特集するのとかどう?みたいな。でも著作権があるから画像は載せられないし、画像がないとわかりづらいし、つまるところ私のお気に入りの三浦界の顔面の素晴らしさを伝えきれないよなって考えて、やめた。お手許に漫画をご用意いただいて!と言うわけにもいかないじゃないか。

だから、意を決して、noteでずっと書きたいと思っていたことにした。それがゴヤである。noteを始めてから一番書きたくて、何度も下書きをして、だけどうまくまとめられなくて、うんざりするほど執筆を挫折し続けた話を書くことにした。「読みたい」と言ってくれている人の顔が見えるから、書ける気がしたのだ。


そして書けた。
1年間、ずっと書ききれなかったのに、草稿自体は3日くらいでできた。
なんというか、書き上げたときはすごく感動して震えたし、

岸田奈美すごくね!??!?!?

って大興奮した。

呼び捨ててごめんなさい。でも本当にすごいって思った。これは、この記事に至るまでにどれほど私が挫折したのかを知らないと伝わらないかもしれないけど、すごいのである。キナリ杯に参加したい!という気持ちだけでnoteに登録した方々もたくさんいて、岸田さんの「文章を書き上げさせるエネルギー」みたいなのをすごく感じた。え、すご。


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真面目な話。

正直、修士論文とゴヤの話は、あまりにも明確な、私の挫折の一つだった。教授から打診された、研究紀要への掲載も逃げ出したくらいのものである。ゴヤを知ってほしい、美術を楽しんでほしい、だから書きたいと思いながらずっと書けなかったのも、自信が少しもなかったから。

今回、岸田さんをはじめ、多くの人の目に触れることによって、ようやく何かの形になったのかもしれないと思えたし、それだけでキナリ杯には参加した意味があったと考えています。見つけてくれた人、読んでくれた人、スキを押してくれた人、コメントを寄せてくれた人、皆さん本当にありがとうございます。ひとつひとつが、とても嬉しい。そして、何度だめでも捨てきれずに持っている、私の大事な夢をこれからも大事にしていこうと思いました。

無責任になりたくないので、美術の記事を書くスピードは、今後も引き続き、他の記事よりどうしても遅くなる気はするけど。

美術の見方を少し知って、それが自分なりの楽しみ方を見つけるきっかけになって、日々を彩るものにしてもらえたら、私はとても幸せです。

人の表現に出会うということは、自分が生きていく世界をやさしくしていくことだと思うから。


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過去記事でもたびたび言及してきたけど、私は、人生で「書くことが楽しい」と思ったことがほとんどない。最初は、死にたいから小説を書き始めた人間なので。noteに来る直前も、マジで今度こそもの書きをやめようと考えていた。やめなかったのは、それでもやっぱり、書かないと「私」を維持して生きていけないんじゃないかっていう根深い不安が、自分の中にあったからだと思う。このことも再三書いてきたのだけど。

10代のころから、私の執筆時の口癖は「孤独の向こう側にしか私の求める表現はない」だった。

孤独だから書いて、書くことは自らの孤独と向き合うことで、そこに私自身でなくては救いきれない孤独があるから、私はずっと言葉をさがしてきた。いや、常に自分のためです。だから「読んでほしい」とか「届いてほしい」とか、そんなの烏滸がましくって全然口にできなかったし、したくもなかった。それは今も、根っこの部分ではあんまり変わらない。

いつも、結果として、たまたま、そのタイミングで私の言葉を必要とした誰かに出会えてきただけなんだと思っている。


岸田さんが「キナリ杯をはじめようと思った、ほんとうのこと」を最後に聞かせてくれて、嬉しかった。キナリ杯、本当に楽しかったです。


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