今日の体重(父方の祖母〜おてんとさま)#53
84.5kg
祖母の学力は、日常生活のレベルでは十分すぎるほどあった。商売をしていたので数字には強く、文字も書けるし、漢字も分かる。読解力もあったし、農業に従事するようになると、スケジュール管理も肥料の配合も、とにかく生きることや生活することに必要な能力は十分備えていた。
しかし、祖母の口癖は、わたしはガクがないから、であった。
小さいときのぼくは、ガクというものは、学校のテストでいい点をとるものであり、それができない人はガクがない人という短絡的な方程式のなかで生きていた。
だから、祖母の言っていることが理解できた。
祖母の長男(ぼくにとってはおじさん)が40代という若さで亡くなった。そのときの祖母の落胆ぶりは見ていられないくらいだった。ぼくは小さく、身近な人の死を初めて体験したので、その喪失感はまだ理解の外だった。
それくらいから、祖母の口癖が、
「にいちゃんのおかげ」
になった。
にいちゃん、は言うまでもなく長男である。
また、しばしば、
「おてんとさまのおかげ」
とも口にした。
祖母は朝起きると、仏壇に手を合わせて、神棚に柏手を打つ。
神棚で祈っているときによく、「にいちゃん」と「おてんとさま」を口にするので、「にいちゃん」は神さまと同格ということだろう。
忙しく動き回ったかと思うと、窓の外を見やり、天気の良さを確認してから、小声で「にいちゃん」と「おてんとさま」に感謝を述べる。
そういうときの祖母は、神々しく見えるのだ。
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