現代版百物語とは?


 寝室の明かりを小さな豆電球だけにして、ベッドに潜り込む。そうして、眠気がやってくるまでスマホを眺めるのが習慣になっていた。寝る前にスマホを見るのはは良くない、というのは聞いたことがあるけれど、つい、で毎日してしまう。

 適当な読み物を見つけて、それを読んで過ごすのが殆どだ。今日も例に漏れず、ネットの海をゆるりと泳いで、ふと目に止まったのは「現代の百物語を作ろう!」という公募型の特集だった。
 百物語。数人で集まって順に怪談を語り、1話終えるごとに蝋燭を吹き消す。100本目の蝋燭を吹き消す時、怪異が現れる……とされている。あとは多くの怪談話を集めた本をそう呼ぶのだとか、それ自体がタイトルの作品もあるとか。
 閑話休題、投稿作品のページを開けば、すでに多くの譚が寄せられていた。日常に潜むちょっと不思議な出来事から、「まんじゅうこわい」のような愛嬌のある小噺、思わず後ろを確認したくなるような恐ろしいものまで、様々な譚が並んでいた。


 ……瞼が少し重い。ちょうど区切り良く1話読み終えたので、そのままスマホの明かりを落とす。最後に時計を確認したが、いい時間になっていた。寝よう、と改めて布団を肩までかけなおす。

 そういえば、と思考が首をもたげた。現代では何人も人を集めて、100本の蝋燭を用意して、という形式の百物語は難しいだろう。文化は時代にあわせて薄れ、うつろい、形を変えながら続いていくものだ。では、現代の百物語とは何になるだろう。
 怪談集もまた百物語。今はこうしてネットが繋がっていれば、誰かが語り、また別の誰かが享受することが可能になった。そして、もし、蝋燭を消す行為が、明かりを消す、に置き換わっていたとしたら?

 ーーぱちん、と音を立てて、不意に部屋が真っ暗になる。
 すう、と部屋の温度が下がった気がした。まさか。今ホラーを読んでいたからそんな気がするだけ、と言いたいのに。
 部屋の隅の暗闇に何かの形があるように見えて。足元に先程まではなかった何かがあるように感じて。
 気のせいだ、そう思って布団を頭から被ろうとして、

は ぁ ア゛

 耳元で誰かの吐息がした。


#2000字のホラー

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