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読むコント

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読むコント➓「事物の順序」

読むコント➓「事物の順序」

なんだか急に暑い。
流石の基次郎もビードロを舐めてなんとかできそうもなさそうな暑さだ。
しかしまた風情というのも馬鹿にはできず、
川を見ているだけでなんとなく涼む気がする。

「なあ」
 「どうした」
「俺、気になる子ができた」
 「また急な」
「んで、思い切って行動にしたのよ」
 「また急な、何?遊びに行くの?」
「いや」
 「デートじゃないんかい」
「違う、なんか恥ずいわ」
 「何が?恥ずいこ

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読むコント➒「親知らず」

読むコント➒「親知らず」

「痛っ」
 「どうした?」
「親知らず生えて来ててさ、口ん中噛んじゃうの
 よな。」
 「あー親知らずか。」
「そうそう」

親知らず。
奥歯のさらに奥。
奥歯のずーっと奥の方だ。
距離感は情熱の薔薇のそれだ。

「だから親に言ったのよ。したら病院いけって」
 「は?親にいったのか?」
「まあ結構痛くなってるからなー。」
 「……」

「親知るじゃん…」

「親知る?」
 「親知らずは親に知らせた

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読むコント➑「備えあれば憂いなし」

読むコント➑「備えあれば憂いなし」

「また地震あったな」

そう話すこいつは
皆んなに檸檬と呼ばれる。

「怖いな、もし地震きたらどうする?」

檸檬の話し相手であるこいつは
皆んなに蜜柑とよばれる。

「もしものために備蓄するよ。」

檸檬。

「確かにな、安心できるよな」

蜜柑

「蜜柑よう、
 一番蓄えなくちゃいけないものわかるか?」

「食べもんだろ」

「おっしいね。正解は水だ。」

「水か、確かに水は大切だ。」

「だ

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読むコント➐「夢見たいな話」

読むコント➐「夢見たいな話」

変な夢を見たらしい。
夢人、いや、ゆめんちゅは持てる熱量の8割を使って話してくれた。

「セーラー服を着たおっちゃんが歩いてたんだ」

皆様の言いたいことは大体わかる。
決してテレパシー受信能力があるわけではないけれど、大体わかる。

それ、ギリ現実じゃね?

セーラー服を着たおっちゃんなんてのは居る。
スーパーマイノリティだとしても一定数どこにでも居る。それでも彼の話は止まらなかった。

「あと

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読むコント➏「不幸にも」

読むコント➏「不幸にも」

佐藤は厄年らしい。
ついこの間も、野球少年たち渾身のホームランを見届けた後にバウンドボールを股間にくらったそうだ。くぅ、同じ男だからわかる痛み。
何故だか自分も痛い気がする程、強烈な不幸だ。

佐藤は続ける。
ここ最近サッカーがたのしいのだと。いい事だ。
しかし足でも捻ったのではないかと話を先読みしてしまう私。でも、そんな心配はいらなかった。
足はピンピンしているらしい。よかった。
しかし足のサイ

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読むコント➎「天国には行けません」

読むコント➎「天国には行けません」

「本当にすまん」

そう口にするのは中間颯太。
小さい頃から家が隣同士であり、男女の壁もなく今でも変わらず仲良くしている。

「いやいや、何がすまんのだ。」
 「いや、その……」

しばらくの間の後、再び颯太は続けた。

「天国に、行けなくなった。」

あっ、そう…。
なんだ?深刻な悩みを抱えている可能性はある。
おおいにある。が、コイツのかぎってそんな事があるのかというとない。たぶん。

「おう

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読むコント➍「泥棒」

読むコント➍「泥棒」

下着2枚。
アパートにある私の部屋は、一階の角部屋。
一階なのが良くないのかと思うけれど、
盗る方が悪いのになと思う。
一瞬でも自分に非があるのではと思った時間が惜しくてたまらない。

「あ、テレビ消し忘れてた。」

部屋から声が聞こえたので、犯人が談笑なんてしてようもんならとっちめてやろうと思っていたが、その必要は無さそうだ。
異性の下着をダミーで干しておくと良いと聞いたから一緒に干しておいたが

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読むコント➌「新入社員」

読むコント➌「新入社員」

新卒。
これ以上に輝かしく面倒な言葉は無い。
勿論、個人の意見だ。

抜かりない芝田は、たとえSNSをやっていなくても炎上を避ける。口癖は「個人の意見だ」。

「はじめまして柴田です。」
 「よろしく、教育係の芝田です。」

面倒だ。全く。
名前の音が一緒じゃないか。
それに、芝より柴の方が見栄えがいい。
まあ、個人の意見だけど。

「名前いっしょじゃないっスカ!」
 「は、はあ。」

スカ。

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読むコント➋「彼氏」

読むコント➋「彼氏」

デート。それも、ドライブデート。
彼氏と。それも、お金持ちの。

「待った?」
 「全然待ってないよ」

嘘。全然嘘。でも笑ってみせる。
真っ赤なフェラーリががなり散らかす。
車内は狭かった。
車は進み始める。

「これ、流石に由紀ちゃんもわかるっしょ?」
 「フェラーリだよね、知ってる。」

わかるっしょ?きっしょ。
言葉は汚いけれど、この気持ちは嘘ではない。

「いやー由紀ちゃんめっちゃ可愛い

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読むコント➊「アナウンス」

読むコント➊「アナウンス」

カップ麺を手に盗る。
間違えた、手に取る。
そしてカップ麺をカゴに入れた。

ピーンポーンパーンポーン

「迷子のお知らせです。
 林田、涼くん。林田涼くん5歳がご家族の方
 を探しています。ご家族の方いらっしゃいま
 したら、レジ横のイートインまでお越しくだ
 さい。」

ピーンポーンパーンポーン

田中は顔を上げる。それから、周りをチラチラと見回すと小さく口を開く。

「ここ、コンビニだよなぁ

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