ふたつのくるぶし
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町田康と穂村弘の『くるぶし』刊行記念トークイベント・サイン会へ行ってきた。
数時間前までは刺し子をしたり、本を読んだりと、ぽかぽか呑気に過ごしていたのに、一変。紀伊國屋に入って、『くるぶし』片手に列をつくる人や、その向こうに並べられた椅子などが目に入るやいなや心臓は右往左往。
二人の座る机には一冊ずつの『くるぶし』。
(ほんとに、ほんとうにここにあの二人が来るのか……そんで喋る、うわあ。どうしよ)
どうしようも何も、大人しく話を聞いていたらそれでいいのだけど、私は町田康を知っていて、町田康の言葉に魅せられて、勝手に尊敬しているから、私の中で「町田康」という人間のイメージがそれなりにあったから、なんだかとても緊張した。
トークは1時間半ほどで、それはほんとうにあっという間だった。二人の何気ない会話を忘れまいと、配られた資料に言葉を書き留めながら聞いていると、学生だった頃を思い出して懐かしかった。
トーク後のサイン会では、町田康に短歌のことや猫のことを話してみようかなと思っていたのだけれど、じわじわと町田康の座る場所に近づくにつれて、右往左往していた心臓は縦にも横にも揺れはじめ、完全に頭が真っ白になった私は、
「あの、昔町田さんが出られていた『エンドレス・ワルツ』がとても好きで、その、何回も観てて、救われてて、作中の阿部薫の衝動みたいなんが、今日お話しされていた「内在律」、その、町田さんの中に阿部薫が居るなと感じて、なんていうか、はい、よかった、うん、これからも何度も観ようも思いました。ほんと、ありがとうございました……」
という、支離滅裂で意味不明な言葉をたらたらと垂れてしまい町田さんを困らせてしまった。無難に猫の話でもするんだったと後悔。うう。
でも、町田康をこの目でみることができて、声が聞けて、『くるぶし』に私の名前を書いてもらえて、ほんとうにいい時間だった。私の家宝がまたひとつ増えた。
ちなみに、『くるぶし』は発売前にサイン本を予約していたのですでに持っていて、さらに今回のイベントで購入したので、いま手元には2冊の『くるぶし』がある。でもまあ、人間にはふたつ踝があるし、ちょうどいいか、と、これまた支離滅裂で無理やりな落とし方で腑へ、落とした。