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未知の味(カラシソバ)との遭遇
フードエッセイストの平野紗希子さんをご存知だろうか。
フードエッセイストという名の通り、食に対する愛を書き綴ったり、声にしたり、とにかく並々ならぬ「食への愛」を持った方なのだ。
Podcastで「味な副音声」のパーソナリティを務めておられるのだが、味の表現やワードチョイスがとにかく秀悦すぎる。
私も一度聞いただけで大ファンになってしまい、通勤、退勤、そして寝る前までも「味な副音声」を聞いてしまうほど。
まさに「耳で味わう」という体験。
そんな平野さんのお話の中で度々出てくるのが京都の「鳳泉」さん。
「鳳泉のエビカシワソバを初めて食べた時、私はこんな料理に出会うために生きているし まだ出会ってない未来にもこんな料理が無数にあるのだ……と生きる理由そのものに照らされた気がしました。」
「旧知のようで全くの未知。」
「全ての要素がオリジナルで必然的。奇抜はやらないのに誰とも似てない。」
と、平野さんから最高の賛美を贈られた鳳泉のエビカシワソバ。
平野さんのような食の経験値が振り切れているような人でさえ、根底にあるものをひっくり返されるような料理ってどんな味なんだろう…?
と思い、いてもたってもいられず「エビカシワソバ」を食べるために鳳泉に赴いた。
河原町から少し歩いたところにある、赤い看板のこじんまりとしたお店。
そしておまちかねのエビカシワソバ。
735円という町中華ならではのお手頃価格。
正直、芙蓉蝦(フーヨーハー)や皮蛋(ピータン)など、漢字でずらりと書かれたメニューを見るだけで興奮でおかしくなってしまいそうだった。そのくらいのおまちかねのエビカシワソバ。
そもそもエビカシワソバとは、
その名の通り辛子が効いた、鶏ガラのあんかけを絡めた中華麺のこと。(鳳泉さんでは昆布だしも使い、京風の上品な味わいになっている。)
カラシそば自体は京都中華の名物でもあるらしいが、北海道出身の私にとってはカラシそば自体が未知だった。
たっぷりの野菜とトリとエビ。
アツアツのうちに口に運ぶ。
「…………う、うまい…?」
それが、私の正直な感想だった。
元々辛子がそんなに好きではないのにチャレンジしたのも悪かったかもしれない。
食べ慣れないものを口にした時、きっと人間はこんな反応をするのだろう。
好みは人それぞれというのは当たり前だが、尊敬する平野さんと同じ感動を味わえなかったことに少し落ち込んでしまった。
しかし、後日「味な副音声」の中でこんな言葉を聴いた。
「『この味嫌い!』って拒絶するんじゃなくて、『これを美味しいと思える人間になりたい…』と思うのって食を好きな人間ならではだよね」
たしかに私はあの時、『この味を、この美味しさを理解したい…!!』と思ったのだ。
好みは違えど、食を愛する人間として平野紗希子さんと同じ位置に立てた気がして少し嬉しくなったのであった。おわり。