私の幸せな退職
3月をもって、仕事を退職し、現在無職ライフを送っている私です。
3月31日まで激動の日々を過ごし続け、今は静かすぎる生活にまだ慣れていませんが、今回は退職にあたって、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ後悔しなかったわけでもない幸せな出来事について書きたいと思います。
タイトルに「幸せ」と入れましたが、もちろん退職にいたるまでは辛いこと苦しいこと悲しいことのほうが圧倒的でした。
辞める以外の選択肢がなかったくらいに、私は脳死していました。
1月の初めに退職願いを出し、それからはお世話になった方々へ退職の旨を自分から伝えにいきました。
この職場では2年間しかいなかったので、正直思い入れというものも少なく、また人付き合いが苦手であったため特定の誰かととても親密になるということは難しかったですが、それでも数少ない、よく話す相手というのはいました。
両親や友達には退職のことは前々から言っていましたが実際に職場に関わる方々へは退職のたの字も出したことが無かったので伝えたときは皆驚いてました。
自分で言うのもなんですが私はいつもにこにこというかへらへらしていて、悩みとか嫌なこととかなさそうに見えるらしいのです。
そんな私が突然退職して、なおかつこの土地を去るという一大決心をしたことについて純粋に驚かれたんだと思いますが、なんとなく察しのつく人は「大変だったもんね」と言ってくれました。
その中で、辞めないでと言ってくれる人もいました。同じ職場で、私もとても頼りにしている上司でした。一度自分の許容量を超えることがあって同じ職場だけど部署が違うのに相談にのってくれたこともあります。
うちの部署に来なよ、そしたらまだ辞めないで働ける?勿体ないよ。
そう、声をかけてくれました。でも私はもう気持ちは固まっていて辞める以外の選択がないということを伝えました。
お世辞や社交辞令だったとしても単純に嬉しかったです。辞める人間に対する常套句だと知っていても、それでも止めてくれる人がいるなんて光栄でした。
3月の最後の方になって4月の人事異動がでました。
その中に中途退職者として私の名前が挙がっていました。私のほかにも退職者は何人かいたので私が特別目立つというわけではなかったですが、そこに私の名前をみつけて驚くという人も職場の中にまだ何人かいたそうで、3月になっても「本当に辞めちゃうの!?」と言われました。
ちょっと話が変わりますが、私は職場の中で素敵だなぁと前々から思っていた男性がいたのですが、他部署で関りを持つことがそもそもなくてお近づきにもなれず遠くから眺めていました。
その方は私の前任の方で、以前は私がいた部署にいた方で、繋がりといえばそれくらいですが、それも私が勤め始める前なので直接の繋がりはありません。
何故そんなにも繋がりが薄いのに素敵だなぁなんて思えたかというと、一番は容姿になってしまうのですが、とにかく見た目がどタイプ。私は病的に細い人が大好きで、細ければ細いほど魅力的に見えるのです。それと身長が高いと最高で、その人はそれらすべてにマッチしていました。ちなみにですが、私はその方と男女の関係になりたいとか、どうにかなりたいという気持ちは全くなく、好きとかそういうのでもなく、ただ人間として「いいなぁ」と思っているくらいの話です。
容姿を置いておいたとしても、温厚で、淡々としていて、この職場では珍しく「染まっていない」人でした。その人の直属の部下の女の子と仲が良かったのですが、その女の子曰くものすごく天然で、主語がないからいきなり話をされるとなんのことかわからなかったりするし教え方も下手だけど気を遣ってくれるし良い人だよ、とのことでした。上司としては微妙だけど人間としては冷静で物事をよく見てくれる人という感じ。一緒に働くときっとまた違う一面も見えてきて嫌なこともあるんだろうけども、遠くから夢を見ている分にはいいとこだけいいとこどりしてもいいんじゃないかと思ってました。
人事異動が発表されたその日のお昼休み、偶然にもその人と廊下でばったり会いました。
「〇〇さん、辞めちゃうの?本当に?」
と、言われてその人が初めて私の退職を知ったんだと思いました。もちろん私からはどんなに素敵な人だと思っていたとしても関りの無い、他部署の上司に当たる人にそんな話はしないのでその時初めて私の退職についてその人と話すことになりました。
私は曖昧に笑いながら「はい、そうなんです」とか答えたと思います。相変わらずへらへたしていた気がします。すると、
「辞めるのやめなよ。俺、〇〇さんと働いてみたかったんだよね。ずっとうちの部署来ないかなって思ってた」
そう、言われたときに、なんかもう、色々なものが沸きだしそうになって。
「私も、〇〇さんと、働いてみたかったと、ずっと思ってました」
これもうほとんど告白じゃん、と言いながらものすごく恥ずかしくなりました。
「そっか、ありがとう。じゃあ辞めるのやめてくれる?やめよう?」
と冗談めかしながら、それでも何度も「辞めないで」と伝えてくれました。後でその人の部下の女の子から、私の退職について一番悲しんでいたと聞きました。他にも何人か退職者がいる中で、私の話しかしなかったそうだ。「勿体ない。なんでこんなことに」と周りの人にも言っていたそうだ。
それを聞いて、正直一番に思ったことは
それもっと早く言ってよ!!!!!そしてもっと大きな声で言ってよ!!!!!
自分が伝えてなかったことを棚上げして、私が退職するからそう言ってくれているのもわかったうえで、それでも思わずにいられない。
もっとこの人とお話して、もっと関り持って、もっと近づけていたら「推し」のような存在になって職場に行くのがもっと楽しみになっていたかもしれない。なのに!!!
嬉しかったけど、その気持ちが大きかったです。
それからまた少し時間が経ち、私は有休消化できないまま家を追われ、ホテル暮らしをしながら職場に通う日々を過ごしていました。
その頃には普通に仕事をしていても涙が勝手に出てくるくらいには気持ちが病んでいて、少しでも優しい言葉や逆に傷つけるようなことを言われたら涙腺崩壊していました。
おかしくなっている、と自分でもわかっていました。
後任の方が決まったので引継をすることになりました。私の直属の上司の立ち合いの元、三人で引継確認をしました。
本来であれば私のような立場のものが引継書を作るということはしなくてもよいそうです。何故なら部下の仕事は上司が全て把握していて当然で、その上司から新しい部下に伝えればいいから、だそうです。けれども私の上司の場合は私の仕事をほとんど把握していないので何も伝えずに去るということはできず、止む無く引継書を作成しました。
私がやっていたことを書きだすだけ、とは言っても結構な量になりました。結果文字ばかりの大変見にくい、目を通すのが億劫になる文章が完成しました。それが何ページにも渡っているわけですから、渡された方も困っただろうなと後悔しています。
書けば書くほど伝えたいことがあふれてしまって、私の反省やもっとこうしたほうがよかったことなんてものも書き出したら止まらなくなってしまったのです。
その日、引継後に私は送別会をやってくれるとのことですぐ帰ってしまったのですが(この送別会のことについてもnoteに書きたいです)、後から聞いて私はなんて馬鹿なことをしてしまったんだと今世紀最大の後悔をしました。
なんと、私の引継書を後任の方が、前述した素敵な人(ちょっとややこしくなってきたのでAさんとします)に見せたらしいのです!何故そうなったのかの経緯は全くわかりません。普通に仲がよかったのかもしれませんし、前任者の話をしたときにAさんの名前を私が出したからかもしれません。私のごみのような引継書を見たAさんはそのまま私のいる部署へきたらしいのですが私は既に帰宅後で、話をすることができなかったらしいです。
翌日の昼、また偶然にも廊下でAさんとばったり会いました。「ちょっと聞きたいことあるんだけど」という出だしで、
「昨日〇〇さん(私の後任者)に〇〇さん(私)が書いた引継書見せてもらったよ。それ見て俺すぐに〇〇さん(私)とこに行ったんだけど会えなくてさ、ちょっとそのことについて聞きたいことあって」
人の往来が激しい廊下でのことだったし、昼は皆が外に食べに行くということになっているので、落ち着いて話せないからと廊下ではなくとりあえず外で待っているねと言われました。
私は大混乱しながら帰る支度を大急ぎでしました。反射的に「あんな引継書、ひどすぎて見ていられなかったよ」というような説教が始まるんじゃないかと思いました。だってAさんは全く笑っていなく、むしろ思いつめたような怖い顔をしていたんです。
どうしよう、どうしようと気持ちが焦っていましたが、外に出た瞬間に私を待っているAさんを見て「うわぁ・・・私を待っているAさんだ・・・」とものすごく当たり前のことなのに驚くほど気持ちが高揚しました。これから何を言われるのかわからないのに急に少女漫画のように嬉しくなって、それだけでもうすべてがどうでもよくなるくらいでしたが、本題はここからです。
歩きながら、Aさんは
「引継書、読ませてもらったんだけどね。まさかあれ全部を〇〇さんがやっていたわけじゃないよね?」
と確認してきたので「上司が知っていることは書かないようにしたのであれは全部私がやっていたことですね」と返事しました。
「だとしたら、あの量を一人でこなすのは無理だよ。それにざっとみただけでも上司がやるべき仕事も〇〇さんがやっているなと思った。あれを見たときに俺は〇〇さんが辞めたくなった理由がわかったよ。あれはひどい。本当によく頑張ったね」
そう、言われて。
私は、反射的に涙が出ました。
Aさんがびっくりしてドン引きしているにも関わらず、まだ人がたくさんいる中で大号泣しました。
「〇〇さん、あのね、人事異動でたけどこれってまだ内示なの。まだ〇〇さんが辞めるのやっぱ辞めたっていえば覆るの。まだ間に合うんだよ。今辞めるの辞めたらさ、〇〇さん(後任の方)と〇〇さん(私)で人が増えるかもしれないじゃない。そうなったら〇〇さんの仕事量も減ってやりやすくなるんじゃない?ねえ、それがいいよ、そうしようよ!」
「もう一度、もう一日だけゆっくり考えて本当に辞めるか検討してみてほしいな。勿体ないよ、本当に。」
あと、3日ほどで退職する人間に対して、言う言葉じゃない。
間に合うわけないじゃないか。今から辞めるのやめたって言っても、各方面から怒られるだけだ。
それに私がもし退職を取り消したら後任者がくることはなくなり、Aさんが言っていたように増えることなんてないだろう。
そんな夢物語を、真顔で。
やめてほしい。
頼むから、お願いだから、そうなればいいなと思えることを、ここにきて言わないでほしい。
私は、他の誰でもなく、貴方にそれを言われたかった。
それを言ってくれて、私はもうそれだけで十分だ。
とても嬉しい。
涙が、あふれて止まらない。実際これを書いている今も泣いている。
私はゆっくり考えるまでもなくあと3日後には退職辞令が交付される。それでも、そう言ってくれたことがたまらなく嬉しくて、嬉しくて、「はい、ゆっくり考えてみます」と言った。
そうしたら、嬉しそうに笑って「良かった」と言ってくれた。
私は、Aさんの気持ちを見事に裏切ってしまったわけだけども、そしてそれがAさんとの最後の会話になってしまって、まともに挨拶もできずに退職してしまったことを申し訳なく思う。
これも後から聞いた話だが、Aさんの部署の、Aさんの上司にあたる人にも私の退職を止めたいという話をしていたそうだ。「〇〇さん(私)に言ってきてもいいですかね!?」と部署が違うから話すのを躊躇っていたけども時間がないから上司に許可をとって直接話すことに踏み切ったらしい。
なんだかもう、感無量だ。
こんな人と、同じ職場にいれていたなんて、なんだかもう、私は。
私は幸せ者だったんだなぁ。
忘れる前に、この気持ちをしたためておきたかったのでかなり勢いに任せて書いてます。
以上、私の幸せな退職、でした。
最後に、もう届かないけども、ありがとうAさん。
大好きでした。