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続・拝啓、久米宏様

 真夏の中、梅雨のような雨が降り続いておりますが、久米さん、いかがお過ごしですか? 6日ほど前に、小坂明子の「あなた」についてお手紙を差し上げた者です。覚えておいででしょうか。その節は本当に失礼いたしました。

 前回の手紙で、私はかつて久米さんがラジオでお話になったことに生意気にも意見させていただきました。実はその件につきまして、新たな発見があったのです。このようなことで何度もお手紙差し上げるのは、心苦しくはありますが、これも何かの縁と思い、お読みいただけたら幸いです。

 久米さんはラジオで、小坂明子の「あなた」の歌詞に対して、

 「子犬の横にはあなた、あなた、あなたがいてほしい」と歌っているが、「子犬の横にはあなた」というのは「あなた」に対して、大変失礼ではないか。せめて「子犬の横にはあなた」ではなく「あなたの横に子犬」ではないだろうか。順番が逆だと思う。

 という意味のことをおっしゃいました。実は私は、いつも論理的に明快にお話になる久米さんが、なぜこの歌に関してこのような意見になったのか、少し疑問に感じていました。ラジオでのちょっとした一言であり、冗談や軽口のたぐいであることは重々承知してはおりますが、腑に落ちないところがあったのです。

 そんなとき、noteというサイトでこのような記事を読ませていただきました。

 こちら、カナダ在住のあっちんさんという方が書かれた記事です。この記事によると、あっちんさんはこの歌を、「未来の伴侶を想像しながら結婚を夢見る女性の歌」と勘違いされていたというのです。それを読み、私は思いました。

 私もはじめてこの曲を聞いたとき、失恋の歌だと気づいていただろうか…。

 テレビの音楽番組でフルコーラスを放送するのは時間の都合上難しいことも多く、1番とラストの部分だけ演奏して終わることが多かったと思います。

 小坂明子の「あなた」は1番、2番、ラストはサビの部分を二回繰り返して終わるといった構成になっています。
 歌詞を見ますと、1番のラストは

それが私の夢だったのよ いとしいあなたは今どこに

 という歌詞で締めくくられています。一度聴いて瞬時に「夢だったのよ」の「だったのよ」に注目できた人には失恋ソングと認識できます。しかし、前半の、私が家を建てたならこんな家にしたいという夢が詰まった歌詞は、かなりインパクトがあり、そこに引っ張られてしまいがちです。その印象のまま、1番のラスト「いとしいあなたは今どこに」を聴いてしまうと、まだ見ぬ未来の夫に思いを馳せた歌のように聴こえてきてしまうのです。

 もし、久米さんがこのような印象で「あなた」を聴いていたとするならば、「子犬の横にはあなた」に違和感をもってしまったことも、わからなくはありません。流行歌は、たくさん耳にしてしまうせいで、全て聴いて把握したような気になってしまうものです。私もそんなパッと聴きで、知ったつもりになっている曲がたくさんあると思います。

 こればかりは作者の小坂さんに伺ってみないとわからないことですが、もしかしたらこの曲は1番で、「失恋した女性」と「夢見る女性」どちらとも解釈できるように歌われている気もするのです。
 夢見る女性の曲だと思いながら二番のラスト

それが二人の望みだったのよ
いとしいあなたは今どこに

 を聴くと、いとしいあなたが実在の人物であり、今はどこにいるかわからないという新事実に驚かされます。
 そんな驚きの中、ラストに向かうサビの部分、

そして私はレースを編むのよ
わたしの横には わたしの横には
あなた あなた あなたがいてほしい

 を聴くと、二度と叶うことのない夢を歌う女性の切実な思いが、より胸に迫ってくるのです。

 レースを編みながら、坊やと一緒に子犬と遊ぶあなたを見ていたかった。愛する人と一度は結ばれながらも別れることになってしまった女性の悲しみや切なさがにじんできます。

 この「あなた」が発売された1973年は久米さんがTBSに入社して6年目の頃です。久米さんが大人気アナウンサーになる寸前の曲ということもあり、もしかしたら当時、落ち着いて聴くことができなかったのではないか、私はそんな想像を働かせてしまいました。

 昔あまり好きではなかった曲も、年を経て聴いてみると、いい曲だと思い直すことが多々あります。そんな新たな発見をしたとき、ふと気持ちが若返って喜びが湧くような気がして本当にいいものです。
 今と時代背景は異なるものの、私はこの曲を聴き直してみて、美しい声と、その儚い想いに胸打たれました。ひとつの思いをこんなにも壮大に歌え上げた小坂さんは当時16歳。その事実に改めて驚かされました。

 僭越ではありますが、久米さんがこの手紙を読んで、昔の曲に改めて向き合うのも悪くないなと感じていただけたら嬉しいです。
 どうぞこれからもお元気で、またそのお声を聞ける機会があることを願っています。 かしこ。


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花丸恵
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