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新潟県民のおもらし


 私の夫は新潟県出身である。
 新潟県は、上越地方、中越地方、下越地方とあり、私の印象では、それぞれ文化が違うように思う。

 どこの地方も米と酒は作っているのだが、食文化には違いがあるようで、ホルモンを食べる地域もあれば、納豆に砂糖を入れるところもあるらしい。
 夫のふるさと、上越地方では、馴染みのない食文化だ。新潟には、それぞれの地域の境に大きな山があり、その山を越えると、雰囲気や文化が変わる印象がある。

 ただ、私は個人的に、3つの地域にまたがる新潟県民には一つの共通点があるように感じている。食事中の方には申し訳ないが、どうも、私の知る新潟県民は、少しおもらし体質なのだ。おもらしと言っても、寝小便的な話ではない。
 何をもらしているかと言うと、小ネタ、ちょっとした面白いことを、ちょろっと、もらしてくる。

 一番身近な新潟県民、私の夫は小芝居が好きだ。たまに落語ばりのクオリティで小芝居を放ってくる。
 しかし、夫は、大変な照れ屋なので、そのオモシロを人前で披露することはない。観客は私一人、という大変贅沢な一席である。
 小芝居だけではなく、ちょっとした話にもオモシロを挟んでくるので、一緒に暮らす者としては、気が気ではない。ちょっとしたオモシロは、ボーっとしていると気が付かない時がある。くだらなすぎて、反応に苦慮することもあるのだが、そういう時は

「あなたのユーモアは、ちょっと私のような凡人にはレベルが高すぎて、拾いきれません。凡人レベルにまで難易度を下げて頂けると大変有り難いです」

 このように言うことで、その場をしのいでいる。

 私の知る新潟県民は、夫とその親戚、その他の地域に2名ほど、という、ごくごく狭い中での話なので、それをひとくくりにして話すのは、かなり無謀かもしれない。
 しかし、私の身内も、比較的面白い話をするのが好きな方だが、夫のような、味のあるユーモアではない。
 その他、新潟県民の知人の放った言葉などを思い返してみても、何だかそこに、共通の味があるような気がしてならないのだ。そうなってくると、どうしたって、
 これは県民性かも知れない…
 という思いに駆られ、そこを起点として物事を見てみたくなってしまう。

 直接、面白いことをバーンと声高に放つのではなく、ちょろっともらす。
 お笑いの聖地、大阪の方に見られる、オチをきちんとつけてくるような完成形のオモシロではない。例えて言うならば、水道の蛇口をキュッと締めた後、パイプの先から、水がちょろっと漏れ出てくるような、あんな感じのオモシロなのだ。

 私がそのことを夫に話すと、
「あ~、そうなんだよねぇ、何か、ちょろっと言いたくなるんだよねぇ。余計なことを、ちょろっと言っちゃうんだよねぇ」
 と言ってウムウム頷いている。
 そして、夫はふと、何か思いついたように、キラリとそのつぶらな瞳を輝かせ、私を見た。

「ねぇ、新潟県民って、そんなに、おもちょろい?」

 ‥‥‥。
 完成度の高い低いは別にして、夫は日々、こうして毎日、ちょろっと何かをもらしている。もし夫が屋根だったら、その役割を全く果たせず、室内はビシャビシャになることだろう。
 しかし「おもちょろい?」と言い切った夫の顔は、これ以上なく輝いていたので、これでいいのだ。
 少なくとも私にとって夫は、面白い人、ではなく。オモシロおもらし体質の、おもちょろい人である。夫のそのおもらしに、私は敬意を表したいと思う。





その他の夫とのエピソードはこちらのマガジンにまとめています。


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花丸恵
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