模写の風景 画家の心 第16回「アメデオ・モディリアニ ネクタイの女 1917年作」
モディリアニといえば、細長い首と顔、瞳のない目、何を考えているのかわからない緑の目。一度見れば忘れられないのがモディリアニの絵だ。そして、彼は数点の風景画以外は、人物画しか描かなかった。
この「ネクタイの女」は、わずかにわかる程度に瞳が描かれている。他の作品では、描いていただろう瞳に、何を思ったか激し筆致で黒く塗りつぶされた絵もある。彼にとって目とは、瞳とは何だったのだろうか。
「目は心の窓」というが、瞳を黒く塗りつぶすことにより心の中を覗かれないようにしたのか。それとも自分だけが相手の心の内を知ってしまったからだろうか。それとも逆に、己の暗い心を知ってしまい、その醜いものを見られたくないと塗りつぶしたのだろうか。
であるなら緑の瞳は何なのだ。謎が謎を呼ぶ。この不気味さがモディリアニという画家の魅力なのかもしれない。
理由はどうであれモディリアニという画家は、芯の細い、おどおどしたひな鳥のような、触れてさわると壊れそうなほどやせてギスギスした若者像が思い浮かぶ(現実はがっしりとした体躯の男)。事実、彼は三十五歳という若さで夭逝する。死因は子供のころから患っていた結核が原因だそうだ。顔色は常に青白く、端正な顔立ちとともに、壊れて行く儚さに多くの女たちの母性をくすぐったに違いなく、これらのことは映画にもなっている。
死の前年の1919年に、妻の「ジャンヌ・エビュレルヌ」と「自画像」を残し、天才は亡くなった。
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