童話小説「ガルフの金魚日記33」
ゲロ造さんは、ぷくに子供たちを紹介してくれます。
「それでよ。オレの背中にのっかてるのが、ゲロ松で、こいつの背中の子が、ケロ子だ。よろしくたのむぜ」
「はい、それはもう」ぷく。
「オレたちはこれから仲間といっしょに、芝居の旅に出るんだ。まあ、ドサまわりっていうやつさ。いろんなところへいって、芝居を打つつもりだ。金魚のおまえさんに見てもらえないのが心残りだが、それはまた今度のことって、じゃぁ、たっしゃでな。あばよ」
ゲロ造さんはそういいながら、歌舞伎役者のような大見えを切りました。
ゲロ造さんとケロ之丞さんは、ゲロ松とケロ子を背負ったまま、窓の外へピョーン、ピョーンと飛んでいきました。
「たっしゃでな、きょうでぇ」
ぷくもうつってしまいました。ぷく。
旅をするといっていましたが、どこへ行くのでしょうか、ちょっと心配です。ぷく。
そんなことをぼんやり考えていると、何匹ものカエルがピョンピョン並んで歩いています。先頭のカエルの背中に子ガエルが、あれはゲロ松ちゃんじゃないですか、手には旗指物を持っています。
『ゲロケロ一座 参上』と赤地に白字でくっきりと染め抜かれています。
「ガンバレー、ゲロケロ一座!」
ぶくぶくぶく、と大きなあぶくでさけびましたが、聞こえたでしょうか…、ぷく。
ゲロケロ一座は草むらにかくれ、見えなくなると、その向こうのほうから、あれは、たしか、秋ちゃんのお友だちのケンちゃんではないでしょうか。手には、黄色いお花を持っています。
これは、ひょっとして…、ぷく。期待していいのでしょうか、ぷくぷく。
「やあ、ガルフ…」
「ぷくぷく…」
「金魚がしゃべれるわけないのにね。そんなことわかっていたのに、秋ちゃんに悪いこといっちゃった。それで、きょうは仲直りしようと思って、これを持ってきた」
ケンちゃんは黄色い花束を、ぷくに見せてくれました。
「その花は、タンポポではないでしょうか。野原でつんできたんですね。きっと、秋ちゃん、よろこぶと思います」ぷくぷく。
「ガルフ、ありがとう。えっ、うそ。いま、きみの声がきこえたような」
…。ぷくぷく。
「そんなバカなことないよね、気のせいだよね」
ケンちゃんは、ハハハと笑いました。
「秋ちゃーん。いますかぁ」
気をとりなおしたケンちゃんは、大きな声でよびました。
秋ちゃんが飛び出してきたのは、もちろんです。
「秋ちゃん、ウソつきっていって、ごめんね」
ケンちゃんは、手にしていた黄色い花をさし出しました。
「うううん、いいの。でも、ありがとう…」
秋ちゃんは黄色い花を手にして、もぞもぞしています。どうしたのでしょう、うれしくないのでしょうか。ぷく。
「ああ、そのことなら、もうだいじょうぶですよ」って、秋ちゃんにだけ見えるようにして、ぷくぷく、合図を送りました。
秋ちゃんは、うんとうなづきました。
「ありがとう、ケンちゃん。これからあたしと…」
「ぼくと友だちになってください」
ケンちゃんは、はっきりといいました。
秋ちゃんは、うん、と頷きました。
するとケンちゃんは、ポケットからビスケットを取りだし、半分にわりました。
そして、その半分を秋ちゃんにわたしました。
秋ちゃんはにっこり笑って、半分のビスケットを口にしました。
ケンちゃんもサクサク食べています。
ふたりは仲よしになったんですね、ぷくはうしろを向いていました。ぷく。
ふりかえると、ビスケットの小さなくずが、金魚鉢の前にパラパラこぼれています。
明日の金魚日記へつづく
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