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学芸美術 画家の心 第50回「葛飾 北斎 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏 天保2~5年(1831~34)刊
日本人の好きな日本人画家のベストファイブは、
1位 葛飾北斎
2位 歌川広重
3位 東山魁夷
4位 伊藤若冲
5位 横山大観
であり、6位以下は、棟方志功、竹久夢二、山下清、北川歌麿、東洲斎写楽と続く。
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次に日本人の好きな日本の絵画は、
1位 葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
2位 歌川広重「大はしあたけの夕立」
3位 竹内栖鳳「班猫」
4位 横山大観「生々流転」
5位 東山魁夷「緑響く」
となっている。調査方法によりいろいろなデータがあると思うが、画家も絵もトップは北斎と広重のふたりである。
そしてこの絵がヨーロッパ、フランスに渡るとその美しさと構図の斬新さから驚きをもって受け入れられ、ジャポニズムという大流行を巻き起こした。
二百年近くも前の浮世絵師が、それ以降の多くの有能な画家を押しのけ上位に位置するのはいったいどういうことなのだろうか。
不思議といえば不思議な話だ。
ところで、71歳になった北斎は、
「この絵は富士の形のその所によりて異なることを示す」、と言う。
北斎はこの絵を含め「富嶽三十六景」と題し、風景画のように見せているが、その実は風景を描いているわけではなく、富士という被写体をいかに見せるかを工夫したというのだ。
だから富士以外の波や船、乗船員などすべてが富士を美しく見せるための小道具であり、背景なのだ。
そして「富嶽三十六景」は旅ブームに乗り、江戸市民に熱狂的に受け入れら、人物画、役者絵、武者絵に匹敵する、いやそれ以上の流行を巻き起こした。
その人気はとどまることがなく、さらに十景が追加され、計四十六景になっている。
この絵には北斎の熱意とその時の人びとの衝撃がいまだに内在し、現代においても鑑賞者に感動を与え続けるのだろう。
真の名画が有する計り知れない潜在能力なのだ。
そしてこの絵が制作された時期が浮世絵人気の絶頂期に当たる。
北斎はさらに言葉は続ける。
「自分は六歳から物の絵を描いてきたが、七十歳までのものは取るに足らない。七十三歳にして梢禽獣虫魚の骨格、草木を描くことができるようになった。八十六歳にしてますます励み、九十歳にして奥意を極め百歳で神妙となる。百数十歳で一点一画生きているように描けるだろう(筆者要約)」
と豪語し、長寿を願いつつ91歳で天寿を全うした。
現代は真に百歳時代。北斎がいま生きていればどんな絵を描いているのだろうか。
一枚100億円はするかもしれない…。
因みに、「神奈川沖浪裏」は今年から新たに発行される千円札の裏の絵になるそうです。