童話小説「ガルフの金魚日記15」
薬草のお陰ですっかり元気になり、あれからダイエットにもはげみました。金魚鉢のガラスに体を映すと、スリムな体形にもどっています。
尾ひれの動きもこんなにしなやかです。くにゅくにゅ振りながら、水草をかき分けすいすい泳げます。
金魚鉢を三周しました。気分は最高、少しも疲れを感じません。
十歳は若返ったような気がします。
やったぞ。ばんざーい!
グフ、グフ、ぷく。
秋ちゃんが来て、
「ガルフ、格好いい」
といってくれました。
グフ、ぶくぷく。
うれしくなって、金魚鉢の中をぐるぐる三周泳ぎました。
冬さんがいってくれました。
「熱帯魚より君でよかったよ」、って。
うれしくて、涙がいっぱい出ました。金魚鉢の水が少し塩からくなったくらいです。
ぷくのお父さんとお母さんのことも、兄妹のこともわからなかったけど、ぷくには冬さんや春さん、ちょっとおませな秋ちゃんや、やんちゃな夏くんがいます。
みんな、ぼくの大切な家族です。これってすごくしあわせなこと。
今日も出窓の上の金魚鉢の中から、青い空と碧い海、そしてみどりの島々を眺めています。
きょうもまったりとした一日が過ぎていくのでしょう。
おや、夏くんがやって来ました。両手を後ろに隠しています。
なにを持っているのでしょうか。ぷくぷくぷく。
「ガルフ、元気になったみたいだね。ぼくが確かめてあげる」
そんな不気味なことをいうと、うしろに隠し持っていた棒を取りだしました。
「ジャーン!」
夏くんは、うれしそうにニッコリ笑うと、その棒を金魚鉢に突っ込みました。
その棒をぷくに向け、突いてきました。
ぷくは、その棒をひょいひょいと、かるがるかわします。
「ガルフ、にげるな!」
そうはいきません。棒でつつかれたら、死んでしまいます。あんな痛い思いするはもうまっぴらです。
夏くんは、気合いを入れなおしたのでしょうか、ビュンビュンと何度もついてきました。
ぷくは、その棒をひらりひらりとかわしていきます。
夏くんはやっきになってきました。棒で水をグルグルかき回しはじめました。
大きなうずになり、夏さんが植えてくれた緑の薬草も、ななめになっています。
ぷくはうずに負けまいと、流れに向かって尾ひれを思いきり振って、泳ぎました。
流れにさからってグイグイ泳ぎます。
夏くんは、棒をかき回していましたが、とうとうあきらめたようです。
「あー、おもしろくない。やーめた」
夏くんは、棒を金魚鉢に突っ込んだまま、どこかへ行ってしまいました。
さっていく夏くんの背中を見ました。
ぷくー、ぷく。
明日の金魚日記へつづく
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