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童話小説「ガルフの金魚日記36」

夏くんが、ぬき足さし足、手にはいつもの棒をもって、しのんできます。
いぜん、あの棒で金魚鉢をひっかきまわされた。
お腹をつつかれ、いたいおもいをした棒です。
それを思いだしました。
きょうは、なにをする気でしょう。とても気になります。ぷくぷく。

棒の先に、糸がついています。
あれは釣りざおです。
お友だちのキヨシくんと、金魚釣りしたあの棒です。

ぷくは、冬さんが植えてくれたみどりの薬草の中に、からだをかくしました。
「ガルフ、かくれてもむだだ。赤いシッポがまる見えだよ」
 夏くんはにやにやしています。
 あー、これまでか。年貢の納めどきでしょうか…、ぷく。

「さっきね、おかあさんがスイカを切ってくれたの。おいしうかったから、ガルフにもあげようと思って」
 これだよって、赤いスイカのかけらを見せてくれました。
 手が赤くそまっています。
 その指で、糸の先にスイカをくくろうとしているのですが、スイカのあまーいしるが、ぽたぽたと落ちています。
 
「あー、しるが…」
 夏くんは一生けんめいに、スイカに糸をまきつけています。
 糸をつけ終えたスイカは、赤いスイカじゃなく、白いスイカになっています。

「できたぁ。いま、いれるから、食べて」
 夏くんは、いいました。
「ありがとう」ぷく。

 たれてきた白いスイカに口をつけました。
 チューッと、吸ってみましたが、金魚鉢の水の味しかしません。
「おいしいスイカだろ。ぼくのぶんをわけてあげたんだからね」
 夏くんは、鼻の下こすっています。

「ありがとう、夏くん。とってもおいしいです」ぷく。
 夏くんは、用事はすんだと、金魚鉢に釣りざおをつっこんだまま、外へかけていきました。
「キヨシー。あそぼぉ」

 ぷくはもう一度、白いスイカをかじってみました。
くちゃくちゃとかんでいると、かすかに、スイカの甘みとかおりが、鼻の奥にとどきました。
「夏くんの気持ち、うけとりました」ぷく。

 夏くんが出かけていくと、冬さんが、小さくきざんだ赤いスイカを持ってきてくれて、手渡しで食べさせてくれました。
 本当にあまくて、おいしいスイカでした。
 このことは、夏くんにはだまっておきましょう。
 ぷくぷくぷー。

     明日の金魚日記へつづく

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