【禍話リライト】朗読おばさん

 地域をすり合わせるのはやめましょう、と言われた話がある。

 決して夢ではないのだが、見間違いとか集団幻覚ではないかという昔の記憶が、Aさんにはあった。現在になって禍話を聞くようになり、私それでようやく腑に落ちました、とAさんは言う。

 Aさんが学童保育にいた頃の話だ。
 その頃両親は共働きで、Aさんは学童保育にいる子供たちの中でも特に遅くまで残っているような子供だった。

 ある時から、学童保育に読み聞かせのボランティアが来るようになった。読み聞かせといっても意外と退屈するようなものではなく、担当の人も残っている子供たちが少しは上の学年なので、気を遣ってショートショートを読み聞かせるなどしていた。
 ある日、特に両親の迎えが遅くなり、読み聞かせの人も帰ってしまったことがあった。
 残ったのはAさんと子供がもう一人、あとは事務員として大人が一人だけだった。事務員は子供たちになにかしてくれるということはなく、Aさんは特に話したこともないもう一人の子供と、親の迎えを待っていた。
 ふと、事務員が何かの用事で呼ばれ、子供二人だけになったタイミングがあった。
 初めは二、三十人もいたのに、今ではたったの二人となるとどうにも寂しい。
「どっちかが先に帰ったら嫌だよね」
「同時に来てほしいよね」
 そんな話をしていると、女性が一人、部屋に入ってきた。近所のおばさん、くらいの年齢の女性で、おそらく自作のような布の鞄を持っている。
 女性は二人の前にやってくると、鞄から絵本を取り出して読み聞かせを始めた。特に今から絵本の読み聞かせを始めるよ、などと言うことはなく、唐突に。
 Aさんはその絵本の内容を詳しく覚えていないのだが、怖かったのを覚えている。異様に迫力のある語りで、とにかく怖く、バッドエンドの絵本だった。
 女性が語り終えた頃には、Aさんたち二人はすっかり意気消沈していた。
 その時、外から車の音がした。どっちだ?どっちの親だ?と思っていると、残念ながらAさんの親ではなく、もう一人の子供は迎えに来た親と一緒に帰ってしまった。
 未だ事務員は帰ってくる様子はなく、うわーこのおばさんと一緒なのか、と凹んだAさんだったが、気がつくと女性は居なくなっている。そういえば車の方を意識してから女性の方を気にしていなかったと思ったが、少し離れたもう片方の出入り口は鍵がかかっており、どうやらそこから出ていったということでもなさそうだった。
 となると、出入り口はAさんの近くの方しかない。
 Aさんは気味悪さを消化できないまま、その日は終わった。

 それから一週間しないうちに、Aさんはこの出来事を残っていた他の子供たちに話した。その中には、当然あの日残っていたもう一人の子供もいた。
「覚えてるよね?」
「覚えてる覚えてる。なんか変な終わり方したよね。努力は報われないとかさぁ」
 話しているうちに、トイレに行っていた子供が帰ってきた。
「なんか、外に変な人いるよ」
「え?」
「行進してるよ……」
「はぁ?」
 そこには、大きなグラウンドの他に小さなグラウンドが併設していて、小さい方は少人数のスポーツサークル用に使われていた。日曜には老人たちがゲートボールをするような場所だ。

 そこに、誰かがいた。
 明かりがなければ全く分からないような暗がりで、何者かが動き回っている。

「懐中電灯持ってきた!」
 建物の中からそのグラウンドの方を照らすと、確かに誰かが六人ほどがぐるぐる回っているのが見える。
「これ、待機してる先生に言わないと……」
「とりあえず、何をやってるのかだけ確認しよう」
 そして懐中電灯を持つ子供が、バッとグラウンドを照らした。

 先頭に女性が、大きな本を遺影のように開いて持って歩いている。
 その後に続いて、ぐるぐる歩き回っている。

 何のためにやっているのかは分からない。
 呆然と子供たちが見ていると、行進は徐に向きを変え、こちらへ向かってきた。
 決して急いでいるという訳ではないが、確かに子供たちの方へ向かってきていた。
 子供たちが慌てて大人を呼びに行くと、大人たちも大変だと駆けつける。
 その時には、グラウンドには誰一人として居なかったが、整地されていたはずの地面は滅茶滅茶に踏み荒らされていた。

 これって最近Cさんが話されてる洞窟の話と、何か関係あるんですかね?
 Aさんは、そう締めくくった。

(出典:シン・禍話 第四十夜)

洞窟の話について

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 本記事は、ツイキャス「禍話」にて放送された、著作権フリーの怖い話を書き起こしたものです。
 筆者は配信者様とは無関係のファンになります。

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