メアリーもご愛用「カーペットバッグ」と産業革命
「じゅうたんでできたバッグ」と共に現れたメアリー
メアリー・ポピンズは、東風が吹いたある日、じゅうたん生地でできたバッグと、オウムの頭の傘を持ってバンクス家にやってきました。それが物語の始まりです。
メアリーが「じゅうたんでできたバッグ」をあけると中身は空っぽでした。ジェインが「なんにも入ってないわ!」と言うと、メアリーはジェインをキッと睨み「なんにも、ですって?」と言った後、次々にいろんなものをバッグの中から取り出しました。
中からでてきたものは…
のりのきいたまっ白なエプロン
大きなせっけん
歯ブラシ
ヘアピンのたば
香水びん
小さな折り畳み式のひじかけ椅子
咳止めシロップ etc….
この他にもフランネルの寝巻7枚、もめんの寝巻4枚、編み上げ靴、ドミノ、シャワーキャップ2つ、アルバム、毛布、羽根布団、折り畳み式キャンプ用ベッド…と出てくる出てくる(笑)
メアリー・ポピンズの「じゅうたんのバッグ」はまるでドラえもんのポケットです。
「じゅうたん生地でできたバッグ」は、原書では「Carpet Bag(カーペットバッグ)」となっています。現在でもじゅうたんのような、織物が使われたバッグをイギリスでは「カーペットバッグ」と呼んでいます。
今回はこの「カーペットバッグ」について深堀してみます。
「カーペットバッグ」黎明期(産業革命)
19世紀初頭からイギリスにはこの手のバッグがあったようです。家庭用カーペットやタペストリーの生地を再利用して作られました。産業革命によりカーペットの大量生産が可能になり、手頃な価格で入手できるようになったことが背景にあります。
カーペットバッグは当初、旅行用の軽量で柔軟性があり、丈夫な手荷物用バッグとして使われました。家庭用の余ったカーペット生地を使用して簡単に縫い合わせたもので、機能性が重視されていました。革や金属を使った高価なトランクと比べて安価で手に入りやすく、多くの人々に普及したのです。
メアリーのバッグもまさに「旅行かばん」の大きさなのも納得です。
デザイン
長方形またはがま口型のシンプルな形状が多く、耐久性のあるカーペット素材で作られているため、丈夫で荷物をしっかり保護しました。柄はヴィクトリア朝時代には草花柄など華やかな模様が多く、当時のインテリアスタイルを反映していました。
比較的大容量サイズのものが多く、服や日用品を簡単に収納することができました。
鉄道旅行の一般化との関係
19世紀中頃、鉄道の発展により旅行が一般の人々にも身近になりました。この時代にカーペットバッグは「旅行者の友」として人気を集めました。特に中産階級や労働者階級の旅行者にとって、手頃な価格で持ち運びしやすいカーペットバッグは理想的な選択肢だったのです。
アメリカでも普及
カーペットバッグはアメリカでも広まりました。特に南北戦争後、アメリカ南部で「カーペットバッガー」と呼ばれる北部の投機家や政治家がこのバッグを持ち歩いていたことで象徴的な存在になりました。
20世紀以降の衰退
20世紀に入ると、より頑丈で洗練されたトランクやスーツケースが登場し、カーペットバッグの需要は次第に減少しました。
メアリー・ポピンズが描かれた1930年代は、その中間にあたる時期だったと思われます。メアリー自身はカーペットバッグを愛用していますが…
バンクス家に突然やってきたミス・アンドリュー(バンクス家のお父さんの子ども時代のナニー(子守))は、たくさんのスーツケースを持ってバンクス家にやってきました。
ゴブラン織り/ジャガード織りのバッグとの違い
じゅうたん生地のような素材で作られたバッグは他にもあり、「ゴブラン織りのバッグ」「ジャガード織りのバッグ」というのもよく聞きます。
この2つは共にフランスが発祥の織物であり、折り方に違いがあります。
ゴブラン織り:手織りによる技法が基本で、タペストリーとして知られる装飾的な織物。緯糸(よこ糸)が主役で、経糸(たて糸)はほとんど隠れるように織られます。絵画のようなデザインが再現されるため、手間と時間がかかります。ゴブラン織りの布で作ったバッグは高級品です。
ジャガード織り:ジャガード織機を使った機械織りで、複雑なデザインや模様を効率よく織ることが可能です。経糸と緯糸が交互に絡み合い、デザインが生地全体に一体化しています。そのため、裏面にも模様が反映されることが多いです。大量生産費なので、比較的手頃な価格の製品も多く作られます。
カーペットバッグの現在
カーペットバッグはアンティークやヴィンテージ品としてレトロファッション好きには支持されています。アンティークマーケットや古着店、チャリティショップ(慈善団体が経営する中古品ショップ)に行くとよく見かけるので、需要はあるようです。
小さめのバッグを使ったり、大きめのバッグはインテリア(収納)として使ったりと、用途は様々です。
まとめと感想
「じゅうたん生地で作られたバッグ」にはレトロな響きがあります。イギリスのカーペットバッグ、フランスのゴブラン織りやジャガード織りのバッグを、これまで「ほぼ同じもの」として理解していた私でしたが、発祥や用途が異なるものだったことが分かりました。
メアリーの「何でも入っているバッグ」も、本を読みながらゴブラン織りのような凝った模様が織り込まれたバッグのイメージしていました。しかしメアリーが使っていたものは、もう少し実用的なものだったのかもいしれません。
とはいえそこは「わたくしは、おしゃれさんです」を自認するメアリーのことなので、きっと素敵な柄のバッグだったと思います。