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Barley Water(麦水):ジェーンとマイケルは嫌いだった?

「風にのってきたメアリー・ポピンズ」第1章「東風」
ふたりは、はじめからケイティ―がきらいでした。年よりで、ふとっていて、そして煎じぐすりのにおいがしたからです。

岩波少年文庫/林容吉・訳

バンクス家の子どもたち、ジェーンとマイケルは、バンクス家の料理番である「ケイティばあや」が嫌いです。バンクス家の新しい子守を雇うために、新聞広告を出そうと決めたバンクス夫妻。その様子を見ながら、ジェーンとマイケルは「どんな子守が来ても、ケイティばあやよりマシ」と思っています。

ケイティばあやが嫌いな理由の一つに「煎じぐすりの匂いがする」とあるのですが…原文では「Barley Water(麦水)の匂いがする」と書かれています。

日本にも「麦茶」がありますが、日本の麦茶は大麦を炒ったものを煮だしたものです。

イギリスの「Barley Water」は、もち麦(Pearl Barely)を煮出したものがベースです。

スーパーで買える「もち麦」。画像:Waitroseサイトのキャプチャ

ジェーンとマイケルが毛嫌いするほどですからイギリスの「Barley Water」は相当まずいものなのかな?とずっと想像していました。しかしイギリスで飲まれている「Barley Water」は「煎じ薬」とはやや異なるイメージのものでした。

画像:The Spruceのキャプチャ

「Barley Water」は、殻をむいたもち麦を水から煮だしたもので作ります。煮だす際にもち麦と一緒にレモンやオレンジの皮もいれて風味をつけ、煮だし汁を果汁で割り、砂糖や蜂蜜で甘味をつけたものがイギリスの一般的な「Barley Water」です。

冷たく冷やして飲む、伝統的なイギリスの夏の飲み物です。

画像: HEDGECOMBERSのキャプチャ
煮出す時間は沸騰後10分程度でOK。画像:The Spruceのキャプチャ
1847年に書かれた私家版のレシピに掲載されているので、19世紀にはすでに一般的に飲まれていたもののようです。画像:Recipe book signed 'S.A. Reddie, 1847' [Library reference: MS.5065]/National Library Digital Gallery のキャプチャ

当然ながら麦の香りがしますし、独特の甘みもあります。これが好きではないと「煎じ薬」的に嫌い…となってしまうのかもしれません。しかし果汁部分でかなり補えるので、「そんなに毛嫌いするほどのものかな?」と思う味わいのものです。

「Barley Water」の効能として、「血圧をさげる」「糖尿病の予防」「食欲増進」「ダイエット効果」等があるそうです。古くは病弱な人に栄養ドリンク的な意味で飲ませるものでもあったそうです。

現在はもち麦を煮出すところから作らなくても、「スクワッシュ(Squash)」と呼ばれる濃縮液をスーパーで買うことができます。さまざまなフルーツフレーバーのものがでています。

画像:Tescoのキャプチャ


画像:Tescoのキャプチャ

こうした市販品は、もち麦を煮出すところから作る「手作り版」よりはずっと麦の匂いがおさえられているので、「ごく普通のジュース」です。
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上記のように、イギリスにおける「一般的なBarley Water」はフルーツ風味の甘い飲み物で、「煎じ薬」というほどのイメージのものではありません。

しかし煮だし汁をフルーツで割らず、煮出しただけのものを飲む場合もあるようです。

画像:Clearcals.comのキャプチャ

これだと確かに… 嫌いな人は多いでしょう(私も好きではありません)。特にマイケルは嫌いそうです(笑)

ケイティばあやは果汁で割らない、このタイプの「Barley Water」を飲んでいたのかもしれませんね。

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