閾値走の神髄
『用件を聞こうか』私の中にいるゴルゴ13が
スタート地点に向かうジョッグのさなかに聞いてくる。
用件は
「閾値走(5k)をどうすれば走りきれるか」
デューク東郷(ゴルゴ13)は
葉巻の紫煙をくゆらせながら
『10%の才能と、20%の努力と、そして30%の臆病さ
残る40%は運だろうな・・・』と答える。
今日の風は追い風となる。
40%の運はきっと私に味方してくれる。
前回の閾値走(LT走)は4k。
しかし今回は5kという標的に変わる。
LT走は、身の丈にあった入り(スタートから1k)を
しないと破綻する。入りがとても大事。
30%の臆病さを持って自分の力を過信せず走ることだ。
前回からの好転材料として
適度な追い風と
足元には新品のターサーRP6に履き替えた。
行きのアップから足元に軽さを感じ
「今の俺の力に、この条件ならいけるでしょ」
とつい余裕が生まれる。
すかさずデュークは
『誇りは気高いが、過剰になれば傲慢になる』
と釘を刺す。
臆してはだめだが、過信してもいけない
そんな大事な最初の1kは3分51秒。
履き古したターサーに比べ当然新品の方が
明らかに走りやすいのだが前回の入りより
2,3秒遅いのは、最後の1kが怖いからだ。
最後の1kはスナイパーにとって(ランナーだよっ!)
最も大事な狙撃にあたる部分である。
入りの1kと締めの1kの間のセクションが
4kのLT走だと2k。5kのLT走だと3kになる。
この中間疾走区間が長くなると
臆さず過信せずの難しいコントロールが
長くなるので、精神的にもきつい。
過信せずの精神状態を若干多く保ったまま
2kの通過は3分48秒。
ここから少しづつ臆さず足を運ぶ時間を増やしていく。
ただ、臆さずはきついのだ。
乳酸という強敵がジワジワ背後より忍び寄る。
しかし、私の中のデュークもまた負けていない。
『俺は、後ろに立つ者を本能的に排除する』
3kを3分41秒で通過。
4kのLT走と5kのLT走の違いは
ここから締めの1kまで、もう1kあることだ。
この1k距離が増えるというだけで
一段上のレベルの走りを要求される。
ハーフとマラソンが別物のように
3k、4kのLT走と5kのLT走は別物だ。
5000mのタイムを上げたいスナイパーは
(だからランナーだよっ!)
3000mから4000mでタイムを落とさない事が
大事なのだが、そのためのトレーニングに
この5kのLT走は有効だと思う。
乳酸がかなり体にたまってきた。
眉間に深い皺がよる。目は狭まり、呼吸は荒くなる。
「きつい」
『つべこべ言うな仕事をしろ』
「早く終わりたい」
『お前の仕事は、当分の間、黙っていることだ。』
最後の狙撃に向けて、
もう一度デューク東郷が狙いを定め直す。
4kを3分40秒で通過。
ラスト1k。後は仕上げだ。
もう心を惑わすものは何もない。
ひたすら無我の境地で動かす。
ピッチが上がる。ストライドが伸びる。
眉が逆八の字を描く。
5回目のガーミンのバイブレーションが手首を打った。
手応えがあった。タイムを確認しなくても
5kのLT走を仕留めた確信が、充実感と共に体を覆う。
そしてゴルゴ13はLT走の神髄をこう言い表すのだ。
『予定された入りから、予定された場所を、
予定された速度で走るのだ。GPSは必要ない』
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