見出し画像

背中がかゆい

 誰しも人には言えない悩みというものがある。

 とにかく背中がかゆい!

「ここで言ってしまっているじゃないか」と突っ込まれそうだが、どうか聞かなかったことにしてほしい。

 手のひらがかゆいとお金が入る、なんて言い伝えを聞いたことがあるが、背中は違うらしい。むしろ財布の中身は日に日に減っていく。

「そんなにかゆいなら手でかけばいいじゃない」

 その通り。その通りなんだが、わたしの体は硬い。冷凍庫で3年眠っていたこんにゃくのように硬い。手を伸ばしても肩甲骨に触れるのがやっとなのだ。もし「体の硬い人オリンピック」のような大会があれば、日本代表は無理でも北海道代表くらいなら射程圏内だと自負している。

 何の得にもならない話だとお思いだろう。残念ながらもう少し続く。

「孫の手を買おうか」

 そんな考えも頭をよぎったが、孫どころか子どももいない身で孫の手を買うのは、なんだか人生の敗北を認めるようで踏みとどまった。

 汚い話だが、あかがたまっているに違いないと思い、持っているあかすりタオルでゴシゴシとこすってみるものの、あかは出ない。ちなみに風呂には毎日入っている。ところが不思議なことに、なんとか体をくねらせて手を伸ばすと、あかが少し取れるのだ。これはつまり、あかすりタオルに問題があるということではないか。

 Amazonで検索してみると、柄付きのボディスポンジのスポンジ部分があかすりになった商品を発見。迷った末、購入してみる。届いた商品はどことなくレトロなカラーリング。いざ使ってみると、うーん、期待はずれ。というよりは体が硬すぎて力が入らない(結局そこかよ)。

 誰かを頼ろうにも、頼る人がいない。だからといって、日帰り入浴などによくある、あかすりサービスを使うのも恥ずかしい気がする。尋常じゃないあかが出た日には、目も当てられない。施術する人に「これはオキシ漬けしないと駄目なレベルですね(笑)」と言われたらどうしよう。それは絶対に避けなければならない。

 そんなある日、YouTubeをだらだら見ていると、背中を木にすり付けて気持ちよさそうにするクマの動画が目に飛び込んできた。その表情たるや、この世の極楽を体験しているかのよう。わたしにはそう見えた。

「これだ!」

 ひらめいたわたしは、風呂場の手すりにあかすりタオルをぐるぐると巻き付け、クマの動作を真似てみる。これが、なかなかの快感! あかも取れているような気がする。

 結局のところ、わたしは動物と同じ行動を取ることで救われたのだ。でも、考えてみれば当然か。人間だって動物なんだもの。

 
…後日談がある。あまりにもかゆみが続くため、重い腰を上げて、となり町にある皮膚科を約10年ぶりに受診してみた。医者はきっぱりと

「単なる乾燥肌ですね」

Oh…。わたしがせっせとあかを取ろうとしていた間、肌は潤いを求めて悲鳴を上げていたというわけだ。カビはいないとのことで一安心。結局、処方された保湿クリームを塗るようになってからは、クマの真似をしなくても済むようになったのでした。

いいなと思ったら応援しよう!

はなふさふみ
サポート、心より感謝申し上げます。これからも精進します。ご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。