昼間の心療内科
普段は会社を終えてから夜に行くので、昼間の心療内科を初めて見た。小さなお子さんを抱っこしたお母さんと、多分長く働けていないんだろうなという風貌の男の人、それから、診療室から聞こえる女の泣き叫ぶ声が印象的だった。
普段私が見ていたよりずっと、辛そうな人で待合室は溢れていた。否、きちんとスーツを着て大人しく座っていたって、その人が自殺寸前かもしれないわけだから、あまり見た目で判断するのは良くないのだけれど。
泣き叫んでいた女は、もう通院はしたくないと言っていた。誰もが「こんな場所で泣き喚く人間が、通院は終わりとはならんやろ」と思ったろうし、私も思った。しばらくずっと叫んでいて、急に静かになって、ぐったりした姿で診療室から運び出されてきた。彼女を抱き抱えていた私服の男は恋人か何かだろうか。
私にもし恋人がいたとして、恋人が鬱になったら、私は支えられる自信がないなと思った。だからこそ、私の今のこの状況も、辛さも、一人で乗り越えるべきだろうと思った。そんなこと、実家に向かう新幹線の中で決意したとて、まったく信憑性がないのだけれど。
実家に帰っておいでと言われるままに家を出たけれど、どんな顔をして過ごせばいいのか分からない。一人暮らしを始めてもうそろそろ十年になろうとしている。他人とは言わないけれど、生活リズムはもはやかけ離れているだろう。たった4日間の里帰りが、功を奏すのか、状況を悪化させるのか。分からない。いろいろ美味しい料理を作って待っていてくれる優しい母に、美味しいねと笑い返せる自信がない。
愛犬に会いに行く。
海を見に行く。
その二つを目標にすることにした。
誰かとの会話は億劫だし、そもそも話したい話もない。
何もやる気が出ないというのは、死にたいより厄介な気がする。
東北へ行く新幹線はいつも混み合っているから嫌いだ。本数が少ないからか、車両が短いからか、理由は全く分からないけれど、一体何をしに東北へ?と特大ブーメランな質問を投げかけたくなるくらいには、いつも満員で走っている気がする。上野の、世紀末みたいな古ぼけた新幹線ホームも好きじゃない。なんとなく、これからどこかへ出かけようとする、明るい気持ちを挫く感じがする。これは、ただの悪口。
ガラガラの電車に揺られるのが好きだけれど、最後にそんな状況を味わったのがいつかはもう思い出せない。豊島園で映画を観た帰り道か、福井で恐竜博物館に向かう道すがらか。
人口は減っているらしいが、どこにも人が溢れている感じがする。息苦しい。
家を出たのを後悔してきた。
私はあのベッドの上で、4日間寝ておく方がよかったかもしれない。
存外あの家が好きだったと思い出したから、良かったということにしよう。
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