佐和 縹

佐和 縹(さわ はなだ)です。 主に現代詩を書いています。 北海道に住んでいます。 猫のリクは犬のような性格です。

佐和 縹

佐和 縹(さわ はなだ)です。 主に現代詩を書いています。 北海道に住んでいます。 猫のリクは犬のような性格です。

最近の記事

詩 『日暮れへの言い訳』

格子の影が揺れる 夜にはまだ早い 淡く伸びる輪郭は切断 途切れた空間に想いを綴ろうか   ささやかな要求は たとえ霞んだとしても消えない じっとその時を待つ 夜は始まっている   蒸し暑いほどの逡巡 居場所はあるはずなのに 深まる夜に引っ張られ見失う おいてけぼりはもう嫌だった   夜明け前の空にのぼる羽虫たち 美しく生きるための蜜が反射する 闇の中の順路を伝え聞いても わたしには到底たどり着けそうもない

    • 詩 『散策』

      線の細い文字で とりとめのない時間を噛みしめて 膝がやけに冷たくて 枕にされそうなぬいぐるみを抱えた。 焦げたパンのみみが食べたくて キッチンには湯気がふたつ見えて 廊下の端のスイッチで 地球上の照明という照明を消す。 外を歩く。 密度の濃くなる空気が肺を満たす。 星がひとつしか見つからない。 大通りに出るまでに いくつ横断歩道を渡るのかに集中する。 にぎやかな膜の内へ 風の抵抗もなくずぶりと侵入したら 向かい側に座る人の鳥肌に気づいても 注文

      • 詩 『紡いで座って暮れていく』

        クッションのへこみを整えたら 髪の結び目を少しずらして 首もとのご機嫌を伺いながら ソファに寝ころがる。   おでこの奥でパタパタと叩き出される文字。 落ち着きのない文字たちを なだめながら褒めそやしながら じっくりと囲っていく。   まだ明かりのついていない電球の下 そばで丸くなる猫のしっぽが腕をなでる。 フルーツは食べたいけれど 皮をむいたり切ったりするのがとても億劫。 ざくろ味の果実酢で満たされる。   エアコンのある生活になって五年ほど。 北の地ではエアコン未設置の家

        • 詩 『造詣への固執』

          豪快に揺れるシャンデリアの光 たくさんの眩しい粒 壁に叩きつける色彩 濃く深く、両手で刷毛を掴む   見開いた目には異国の情景 またどこかへ 静かなまばたきに息を呑む   ちぎれそうなほど力強く 次つぎに生み出される身勝手な奇跡 もっと近づきたくて 何ひとつ取りこぼさずに見つめたくて それなのに後退りしてしまったのは わたしの唯一の後悔   熱ければ熱いほど 狭ければ狭いほど 手の届く空を目指す鳥が鳴く 美しく、頭上から歌い上げる   マーブル模様に染まる壁ごと 全身で包み込

          詩 『黒の空との時間』

          優しい黒の空 思わず疑ってしまうような薄曇り またたきは見つからない   それでも優しい黒の空 まろやかな風を受ける あたたかく ささやくように   ベランダに置いた椅子 ガラスの隔たりに映る部屋の明かり 淡いオレンジ色   家々の向こう側を走るタクシー 街の生活感に一役買う そうでもしないと街は呼吸を忘れてしまう あまりに静かな日   遠くをまばらに知らせる街灯 よそよそしく夜を照らす いつかの優しい黒の空を思う   立ち上がるタイミングは特にない   どんな区切りも寂しさ

          詩 『黒の空との時間』

          詩 『見ず知らずの音』

          ふいに聞こえた音。 高くて、細くて、柔らかい音。 微かに響く。優しい。 話しかけてくれている、一音ごと。 すがってしまいそうに、優しい。 背中をさすってくれたから息を吐く。 肌に伝わる。清涼感に似た音。   そちら側を見ることはしなかった。 でも真上を見た。 響きを目で追えるかもしれないなんて思ってしまった。 優しい。途切れずにふるわせる音。 てのひらを合わせるよりも、届けてくれる。 葉を何枚も重ねてあおぐように、辿り着く。 手を伸ばしてしまいそうで親指を握る。   優しい音

          詩 『見ず知らずの音』

          詩 『ページをめくるように辿る』

          足先の冷える朝。 すでに活発に生きる、猫と国道。 反射する白い光にあくびで挨拶をする。   耳に残る音楽はいつの日記だろう。 曲に言葉をのせて 言葉に曲をのせて 巻き戻しと再生を繰り返す。   覚束ない足取りで辿る記憶。 目を閉じて 静かな時間の作業。 思いもよらない道のりには笑いがこぼれる。 顔を流れるシャワーの温かさ。 濡れた髪は、苦手だから早送りしよう。   猫はいくつものルートでおねだり。 風にふくらむカーテンには見向きもせずに。 南東の窓からはもうただの一日。  

          詩 『ページをめくるように辿る』

          詩 『ぽとぽと落ちる違和』

          鍵の開く音で一息ついた深夜二時。 この一日がやっと終わったことを知る。 疲れたような安心したようなあなたの表情。 到底わたしには数えきれないほどの 絡み合いながら重なる感情とかさぶた。 苦しみと葛藤をまとう人の日々に触れ あなたは混乱して傷ついた。 誰かを理解し支えるために 人は想像力や経験値を両腕に抱える。 きっと歩み寄りとはそういう仕組み。 あるいはきっと 忘れてはいけないのは 小さな違和感の収拾。 誰かの心を覗くのはひどく難しい。 誰かの苦悩に気づけなかった時は

          詩 『ぽとぽと落ちる違和』

          詩 『すき』

          夜中には雨が降るらしい 冷たい風が入り込む窓に向かう 窓を開けている余剰感 窓を閉めている籠城感 どちらからも親密な安心を得る   だから窓が好き   扉は少しこわい ノブを回すときのカチャリという音 大雑把な人が勢いよく閉めるガチャンという音 風でふいにガタガタ鳴る音 扉が開いているのは無防備 扉が閉まっているのは不自由   うまく扉と付き合えないでいる   窓は眺めるためにある 時間を忘れるという体験ができる 同じ景色でも、何度でも   だから窓が好き   時どき 夏なの

          詩 『すき』

          詩 『灰桜の沼地』

          沼の色、沼の正体について考えたことなどなかった。 その沼のまわりにはおそらく雫のこぼれそうな葉をしなだらせた木々。粘性のある土、そこから生える草。呼吸するつもりもないけれど気づけば賢く生息しつづけている。 思うに、茶色と紫色は相性がよさそうに混ざりあう。奥行きよりも沸き上がって膨らもうという衝迫のほうが強くて、だから、桜色に引っ掻いた健気な痕でさえ見過ごす。 届かない程度の明るさならいらなかった。光を発するでもなく滲み出る水分。渇きはない。いつまでも。 風は吹くだろうか。

          詩 『灰桜の沼地』

          雨あがり#3行日記

          雨がやんだから窓を開けて外を眺める。 屋根、空、木、壁、自転車に気を取られていたらアスファルトの色が7割くらい変わっていて 乾いていく過程をまた見逃したことに落胆した。

          雨あがり#3行日記

          詩 『鳴りやまないで』

          リーーー 鳴っていると安心する リーーー 狭い世界で生きられている リーーー 頭の中で奏でる音 リーーー   リーーー 右側には ピチチチとチリリチリリもいる 好きな音 わたしだけの音 リーーー   子どものころは コーーーンに聴こえていた気もする 紙芝居の次のページにいくときの音と同じ なんでもかんでも コーーーンだと思っていた気がする   わたしを守る音 リーーー リーーー   もうすぐ夕方だから 夜までまた聴こえないのかもしれない

          詩 『鳴りやまないで』

          詩 『夏のはじまりに生まれた風』

          線路と一緒に夏を走る。 いつもは気にくわない風。今日のこの日は視線を合わせる。微笑む。 短い夏はいつだって思い出の中にあって、夏の中にいる自分には気づけない。 水の流れる音をきく。手ぬぐい越しの木々は映画のクライマックスさながらに揺れる。情緒ある距離感。葉の一枚ずつに事情でもあるみたいに。 そうしたら、帰ろうか。 澄んだ頭に体が追いつく。アスファルトに生きる賢明な命。 手の甲に擦り傷がいくつあっても、こんな日は平気に手をつなごう。 まだ少し白さが混ざる青の空。どこま

          詩 『夏のはじまりに生まれた風』

          ずっとこれ#3行日記

          猫に薬を飲ませる 最近はずいぶん上達したものだわと浮かれていると 次には必ず失敗する不思議

          ずっとこれ#3行日記

          詩 『火曜日と庭園』

          カーテンの美しい襞。 丸みのある柔らかな。 目で追うばかりで数は知らない。 あの曲線も爪を立ててつぶしてはいけない、と自制する。 今日も会えるつもりで目覚めたのはまだ切なくない。 五月はもう離れていった。 眠たさばかりが安住する毎日は一日の「順番」に謝りたくもなる。 窓から見える霞んだ景色も午後一時四十五分。 白い灰色。 風の音は遠いから忘れられる。 葉が舞う。 新緑は瑞々しかった。 誠実な顔で一枚ずつ唇に挟み込む。 目で追わずに数えられる陽の光。 首筋も苦手なのに温かさはよ

          詩 『火曜日と庭園』

          ほぼまんまるの月#3行日記

          夜空にくっきりとした雲がもくもくと居た。 視力の良くないわたしには月がまんまるに見える。 満月かどうか判別できないこの数年。

          ほぼまんまるの月#3行日記