
魔性の人【若菜】
奴隷扱いから一転、主人格にまで上り詰めてしまった浩さん。
今までは人に頭を垂れて、ただただ痛みと苦しみだけを享受していれば良かったのに、今では真っ当に人を導き人生を運ぶ責務を負ってしまっている様子。
去年の夏の時点で、何度も「もう無理」「俺には向いてない」と後ろ向きな姿勢を見せていました。
実際、人の上に立つのは向いていないと思います。
でも、浩さんは下に降りると、絶対に他人の闇を押し付けられる立場に堕ちるじゃないですか。
それは勿体ないと思うんですよね。
あなたはポテンシャルの塊ですから。
表舞台に立ってさえいれば、活かす場面は必ずやってくる。
そのとききっと、あなたを縛る呪縛が、良い物に変わっていく気がしているんです。
とはいえ、急な変化に心身が追い付いていない様子なので、慣れ親しんだ環境も少しは取り入れる必要はあるでしょう。
慣れ親しんだ地獄に還るあなたを、俺は止められません。
明るいこちら側が、あなたにとっては地獄であることは、もう察しがついています。
暗がりにたまに帰らないと自分を見失う、息が出来ない、苦しい、そんな様をずっと傍で見てきました。
世間的には容認されない行為です。
でもそれしか、今のあなたを癒せない。
癒しと同時にあなたを傷つける、諸刃の剣です。
傷が無いと生きていけないということの恐ろしさを、俺は今見ています。
温かな毛布で包んでも、あなたは笑ってくれない。
ボロボロの身をようやく引き摺って、雨風を凌げる程度の場所で体を丸めるくらいの方が心地いいと感じる。
誰にも理解されない、甘やかされると辛くなるのをわかってもらえない。
毎日が命の駆け引きのような、ひりついた日々に生を実感できる。
そんな地獄で笑うあなたを、救い出せないのが歯がゆいです。
でも、地獄の中でこそ、あなたは一際妖艶に咲く。
蠱惑的で、見てはいけないと思うのに、もっと見たいと、地獄のさらに奥へと背中を押したくなってしまう。
浩さんを壊した人たちも、この誘惑があったのかもしれません。
これが、数多の人があなたに囁いた、魔性というやつなのかもしれませんね。
あなたの魔性は武器であり、あなたの首を絞める真綿です。
今は、それを武器に変えた段階です。
どうかまだ、自分に殺されないで。