超短編小説(駐車券)
財布に入れたはずなのにない。ズボンの両ポケットにも手を入れてみたが車の鍵とスマホ以外には入っていない。お尻のポケットにはいつかのレシートがぐちゃぐちゃになって入っているだけ。肝心の駐車券がどこを探しても見当たらない。
駐車券がないことに気づいた僕はレジ待ちの列から外れて、一度買い物かごに入れた品物をすべて元の場所に戻した。それから急いで車に戻り、5分ほど車内を探した。しかし駐車券は見つからなかった。
僕は諦めてスーパーの店員に事情を話すことにした。駐車券を無くすとどうなるのだろう。いくら払わなければならないのだろう。僕はそんなことを考えながら車から降りて、入り口に向かって歩き出した。すると、ふと目の左端に黄色い紙が映った。
その紙は僕の車から3台横の白い軽自動車の運転席近くに落ちていた。風で飛ばされてはいけないと思った僕は、急いでそれを拾い上げた。
やっぱりだ。僕は心の中でガッツポーズをしながらその駐車券をポケットにいれた。僕の車から少し離れている点が不思議だったが、風に飛ばされたのだろうくらいにしか考えずにスーパーへ戻った。
先ほど戻した品物をかごに入れ直してレジに並んでいると、隣のサービスカウンターで慌てているおばさんの声が聞こえてきた。
「ポケットに入れたはずの駐車券がないのよ。」
「財布や鞄の中は探されましたか?」
「それも見たわよ。落とし物で届いてないかしら。」
僕はドキリとした。まさかあの駐車券がこのおばさんの落とし物だったのだろうか、そんな考えが一瞬頭をよぎった。
しかし、それと同時に仮にあの駐車券がおばさんのであってもバレないだろう、だから知らぬふりをすればいい、という邪な考えが頭の中に浮き上がり膨らんでいった。
僕はすました顔で会計と駐車券の無料処理を終えると素早く品物を買い物袋に詰めた。早くこの場から去りたかった。出口に向かう時、サービスカウンターの方をチラッと見たが、すでにおばさんはいなかった。
車に戻ろうと歩いていると先ほどのおばさんと店員が、僕が拾った場所で駐車券を探している姿が目に入った。いよいよ僕の拾った駐車券がおばさんのものである可能性が高まった。
それでも僕は素知らぬ顔でその前を通り過ぎ、運転席に座り助手席に荷物を置いた後、ポケットから拾った駐車券を取り出した。そして駐車券に印字された入庫日時を確認した。
やっぱりだ。これは僕の駐車券ではない。僕がスーパーに着いたのは14時30分だが、これには14時46分とある。
流石に焦った僕は乾いた喉を潤そうとカップホルダーからペットボトルを取り出した。するとペットボトルの底面から黄色い紙がひらひらと落ちて僕の膝の上にとまった。
印字された日時を見ると14時30分とある。これが僕の駐車券だった。一度車に帰って探した時は、まさかペットボトルに張り付いているとは思いもしなかったから見落としていたのだ。
僕は静かに車を発進させるとおばさんたちの前を通る時、運転席の窓から車内で見つけた僕の駐車券をそっと落とした。
しばらく進んでバックミラーを見ると、僕が落とした駐車券に気づいた店員がおばさんに向かって、
「ありましたよ!」
と叫んでいた。