踝に花

初夏の日差しが作り出す、薄い影のかかった道を歩いていた。
影が途切れたところで足元に影が走ったので、ぎょっとして飛び跳ねると、私の踝の横あたりに花が落ちていた。
花は、ガクから上の部分で綺麗に落ちていた。
落ちた花が、風に吹かれて私の踝まで運ばれてきたのだろう。
プレゼントの箱に巻かれているリボンのような鮮やかな濃いピンク色の花で、硬いアスファルトの歩道とのミスマッチが美しくてしばらく立ち止まって眺めていた。
どこからやってきたのだろうと思い、あたりを見回すと、今来た道の道路を挟んで反対側の小料理屋の店先の木に、みごとな花が咲いていた。
ああ、あの花だな。
その木は、私の目の高さから上にたくさんの花を咲かせていて、毎年そこを歩くたびに、みごとに花を咲かせるものだと眺めるのが習慣だったが、なぜか長らく見ていなかったように思う。
ここ数年閉めていたその店も、今は開けているようだ。

もうすぐ義父の初盆だ。
義父の葬儀に飾られた花と、夫の横顔を思い出す。
そして、友人への出産祝いに結ばれていたリボンを思い出した。
人間の最後と始めとに触れた。
人が生まれて自然に帰ってゆくこと、生きている間の思い出が素晴らしい宝物であること。

ふと自分と夫には子供がいないことに思い当たり、もう諦めなければいけない年齢だと思うと切なくなったが、すべてはこれで良かったのだと、妙に納得して、その場を後にした。


2023年6月28日(水) 藤乃花總

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