女性に多い、瘀血(おけつ)という状態
漢方医学には瘀血(おけつ)という見方があります。血(けつ)というのは血液とイコールではなく、血液が関係する栄養補給などの機能的面も含めた概念です。体内の血液のながれがどこかでわるくなることにより、さまざまな不ぐあいを引き起こすと考えます。停滞してしまった血は、その役割を果たせないどころか、かえって有害になってしまいます。この血の流れが滞ってしまった状態を血瘀といい、滞ってしまった血自体を瘀血と呼びます。この病態に対応する生薬として、当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)・蘇木(そぼく)・紅花(こうか)・桃仁(とうにん)などが挙げられます。これらの生薬がふくまれている漢方薬なら、血液のめぐりを良くしようとするはたらきが含まれている、とおもってよいでしょう。
瘀血によって出てくる症状として以下のようなものが挙げられます。べろをみると、部分的に茶色や紫色になっている。べろの裏側をみると、静脈が膨らんでいる。皮膚にこまかい血管網が見える。下肢静脈瘤がある。子宮筋腫がある。くちびるや歯茎の色がわるい。しみが多い。目のくまができる。経血に血の塊が混じる。月経前に乳が張って痛んだり下腹が張ったりする。打撲などによる青ジミができやすい。いぼ痔がある。これら以外にも、長く続く痛みなども瘀血が関係していることがあります。
瘀血を改善する漢方薬を駆瘀血薬(くおけつやく)といいます。瘀血があればすぐに使いたいところですが、体力がすっかり落ちてしまっている人の場合は、体力を建て直すような漢方薬を使ったうえで駆瘀血薬を使わなければならない場合もあります。
一般的に瘀血はご婦人に多く、女性の三大漢方処方と言われる、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遙散はいずれも駆瘀血作用がある処方です。しかし、男性にもよくみられます。血の巡りが悪いということは、動脈硬化、高血圧、脳血管疾患、打撲、捻挫その他でも引き起こされる病態であり、駆瘀血薬は男女を問わずよく使われる処方群となっています。
仰向けになって下腹のあたりを手で押さえてみて、痛みを感じるのなら瘀血があるのかもしれません。漢方医が腹診でみる所見の一つがこの下腹部の圧痛です。もちろん急性虫垂炎その他で腹膜炎を起こしている状態を示す圧痛とは異なります。消化器外科医はこの辺をしっかり鑑別します。
瘀血を取り除く漢方薬は多数あります。その中からその人に合った処方を選択していくわけです。体質の強弱、冷えがあるのかないのか、便秘はどうか、むくみなども出るのか、精神状態はどうかなどなど、多くの訴えや状況を加味して考えていきます。
なお、女性三大処方の加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸は生産額の上位20傑にいずれも入っており、よく利用される方剤であることが分かります。