乙字湯のお話 痔によく使います
外科診療では、痔の患者さんをよく見ます。外来を訪れる方は、一大決心でこられている方も多く、外科に来るからには手術覚悟と言う場合も多いようです。中には最初から手術希望として来られる方もおられます。しかしまずはお薬の治療から始めます。お尻に入れる座薬と漢方薬をよく利用します。2週間後に来てもらうと、手術希望の方もお尻の調子が良くなりもう少し様子を見ますと宗旨替えすることも珍しくありません。ですから手術を決心するほどまで我慢する前に診察を受けていただければ、もっと速やかに楽になることも多いと思います。お薬の治療でうまくいかない場合にのみ手術をお勧めするようにしています。
痔の方にお出しする漢方薬の1つが乙字湯です。含まれている生薬から見ると、炎症を鎮め、血の循環を良くし、便通を整えてくれると言う方向が見えてきます。乙字湯は江戸後期の医師、原南陽によって創り出されたものとされています。しかし現在使われている処方は、江戸末期から明治初期に活躍した医師、浅田宗伯によって少し変更されたものです。彼は浅田飴でも有名ですね。
原南陽は水戸藩範医の父を持ち、彼自身も水戸の殿様の難病を快癒させたことがあると伝えられています。お酒もずいぶん強かったようで、その殿様に一服の漢方薬を飲んでいただきその効果が現れるまでの間お酒を飲んで寝ていたと言う話も伝えられています。また乙の字がついたお薬だけでなく甲や丙の字のついたお薬も生み出していたようですが、現在残っているのはこの乙字湯だけです