漢方薬による治療原則
漢方では様々な漢方的な指標を用いて、患者さんの状態を把握、判断して治療に用いる方剤を決定していきます。その際に用いる指標のうち、寒熱(かんねつ)と虚実(きょじつ)ということについて述べます。
寒熱と言うのは字のとおり寒いか熱いかということになります。ただしこれは体温の高低と一致するわけではありません。体が冷えている場合はもちろんですが、冷えていなくても或いは体が熱くなっていても本人が寒いと感じていれば、寒と判断します。熱は体が熱を持っていて、本人も熱がっているときと言えます。
寒熱の判断ができれば、寒であれば温める治療を行い、熱であれば冷やしてあげるような方剤を用いるというのが治療原則になります。
次に虚実です。虚とは病の原因と考える病邪がやってきたときに、それを排除する力が不足していて病気が治せない状態を指します。これに対して、実とは病邪が充満旺盛であり体の方もそれに対抗する力があるために、症状が強く出るような状態です。
治療原則とすれば、虚の場合は足りないものを補うということで、補剤と言われるもので治療を考え、実の場合は体に余分に存在する病因(邪)を排除する製剤(瀉剤)を用いることになります。
このようにして治療薬を決定していくとき、漢方薬としての特徴を検討するためには、その漢方薬がどのような生薬構成になっているかも検討できると良いですので、構成生薬に関する知識も必要になってきます。さらには生薬ごとの性質まで知っておくことが望ましいわけです。
さらに言えば、歴史ある漢方医学を深く理解しようと思えば、古典と言われるものも読んでいく必要が出てきます。なかなか通読とはいきませんが、私もつまみ食い程度に、傷寒論などの古典を眺めることもあります。
深遠な東洋医学の世界の全てに通じることは、私には荷が重すぎます。しかし、保険収載されている漢方エキス剤は140弱。その中でも実際に処方するのは100程度。処方するものに関しては、なるべく深く理解するように努力しています。
一方、いくら処方に詳しくなっても、患者さんの状態をとらえる力を養わなければ、適切な処方を選ぶことはできません。漢方の場合、患者さんの状態を判断する、つまり診断と、薬を処方する治療とは一体ですから知識に裏打ちされた診断治療能力を高める努力が常に必要です。理想に向けて歩み続けるしかありませんね。
現代は生活の中で体を動かす機会が少ない人が増えています。その影響か熱を賛成するつまり運動することが少なくなり、体が冷えている傾向にあると言われます。冷えている場合には温めてあげると言う漢方の戦略で体の調子がぐっと良くなる方も多く見られます。体調コントロールに漢方薬を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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