小説「一畳漫遊」 第四話 治らないなら家に帰ろう④
抗がん剤のTS1を1年間服薬したところで、CT検査などを行ったけれど、その時点で明らかな再発は認めないとのことだった。そこで、さらにTS-1の服薬を続けるかどうかを相談した。居川先生は自分なら服用を続けるとおっしゃっていたけれど、術後補助化学療法としてTS-1を使用することにより、再発を抑えられるという結果は1年間の服薬で成績が出ているということだし、お金の問題もあるので、TS-1の服薬はそこで中止してもらうことにした。このとき服薬を続けていれば、その後の展開が変わっていたかどうかは誰にもわからない。
術後一年間は6週間に一度通院していたが、服薬をやめて3か月に一度の通院となった。その都度検査内容を変えながらも、再発の有無をチェックしていく。居川先生がきちっと検査スケジュールを決めていくところを見ると、やはりかなり再発する可能性が高いのかもしれない。まあしかしどうなるかは神のみぞ知るということだろう。体調は上々で、仕事も続けながら日々を送り、術後3年半にわたり何事もなく経過しました。
その日いつものように、CT検査の結果が出るのを待っていました。体調も良く、検査後にカフェで食べた食事もおいしく食べることができました。同病の顔見知りと話したり、本を読んだりして待っていると、居川先生が診察室から顔を出して呼び入れてくれました。すでにフィルムはシャーカステンにかけられています。いつもならすぐに「問題ありませんでした。」と話しかけてくれるのに、その時は少し無言の時間がありましたので、すぐに何かを感じてしまいましたが、先生が話始めるのを待ちました。
「CTの説明をしますね。実は肝臓に3か所ほど気になる影があるのです。実際のところは細胞を取ってこなければ、今回の検査だけで確定診断とは言えない面もあるのですが、肝臓にとんでいた胃癌の細胞が、ここにきて大きくなり検査で分かるようになってきたのだと思います。胃癌の肝転移ということです。今すぐ体調がどうこうということはないと思いますが。再度抗がん剤治療を開始したほうが良いと思います。」
突然の再発宣言であったが、それほどショックは受けなかった。それに治療方法が残されているのなら、それをやっていくだけだと思った。説明では、術後に使用したTS-1で治療を開始する選択肢もあるが、TS-1にシスプラチンを加えた治療方法を勧めたいとのことであった。副作用が強く出る可能性もあるとのことだし、腎臓に負担がかかるのでずっと使い続けることはできないとのこと。また効かなかったり、一旦効いても効果が無くなることもあるとのこと。いずれにしてもやるしかないならやろうと思った。シスプラチンは点滴なので、その時だけ短期入院を繰り返すこととなった。