ショーケンKANPO ⑦ 便秘とほてりを訴える50歳女性
症例検討を通して漢方を語る、ショーケンKANPO第7回です。今回は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を用いて便秘やほてりが改善した症例をお示しします。 【ポッドキャスト】
【症例】女性 50歳
【主訴】便秘 ほてり
【現病歴】約1年前から月経周期が不規則となり、ほてりや急に汗をかいたりという症状が出てきた。同時期より頭痛や肩こりなどを出現し便秘がだんだんひどくなってきた。排便は1週間以上ないことも珍しくなくなってきた。漢方診療を希望してラインとなった。
【所見】身長154cm、体重72キkg。小柄で肥満傾向のある方である。血液所見に大きな問題は無い。肌の色つやはよく舌の裏側に静脈が怒張している。お腹の力は強く左下腹部に強い圧痛があり下腹部全体にも抵抗と圧痛を認める。
【経過】便秘傾向の強い更年期障害の所見と捉え、桃核承気湯を処方した。服用開始した数日間は下痢傾向となったが、そのまま服用してもらった。数週間経つ頃にはほてりや発汗が軽減してきた。また知らぬうちに肩こりや頭痛も良くなってきていた。便通も良好となっており体調も良くなったとのことであるが本人の希望でしばらく継続処方となった。
【解説】桃核承気湯は、体力があり、のぼせや便秘傾向がある人で、瘀血(静脈系のうっ血、出血などに関連する症候群)を認めるような人に使う処方です。頭痛、めまい、肩こり、月経異常、腹痛、腰痛などを認めるとともに不安、不眠、興奮などの精神神経症状を伴うことが多いです。
保険適応病名は、「比較的体力があり、のぼせて便秘しがちなものの次の諸症: 月経不順、月経困難症、月経時や産後の精神不安、腰痛、便秘、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)。」となっています。
大黄牡丹皮湯も似たような方に使います。お腹を押して右下腹部が痛ければ大黄牡丹皮湯で、左下腹部なら桃核承気湯を使うなどと言われることもありますが、あまり気にしなくてよいと思います。上記症例の場合は圧痛が左に強かったようですが、右下腹部を痛がる人で桃核承気湯の方がよい方もおられます。
通導散も似たような患者さんに使いますが、桃核承気湯の方が下剤としての効果が強いと思います。症例の場合1週間排便がないことも珍しくないといった便秘傾向の強い方でしたから、まずは桃核承気湯を用い、それがぴったりだったからそのまま使用したわけです。使ってみて今一つと感じたら、通導散や大黄牡丹皮湯に変更していたでしょう。
桃核承気湯の解説などを読んでいると、女性向けの漢方薬のイメージが強いと思いますが、男性にも使います。また高齢者の便秘にも良いと思います。一般的に高齢になるほど効果の強すぎる薬は避けるのが常道です。しかし、腸管の動きが弱ってしまって便が出ない高齢者の場合、桃核承気湯のような強い下剤作用をもつ処方でなければ効果が出ないことも多いと思います。
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