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あなたのコーヒーがあの人たちのコーヒーと同じとは限らない

日本でよく見るコーヒーチェーン店のような形態をスペインで見ることがあまりありません。大きな駅や空港、観光地の中心地にはスターバックスを見ても、それ以外の場所で私はお目にかかったことはありません。

従って、これを言ったら、どこかから反感を買いそうですけど、小声で私の主観を言うと、スペインでスターバックスの立ち位置は、どこでも判で押したようにあるチェーン店、バーガーキングやマクドナルドなどと大差ないような、店内が汚くて特に美味しいわけでもないうえにやたら高い店(ひどい言いようですけど、しがない個人の主観なのでお許しを)、という印象です。そして店舗数は多くない。

日本では、スターバックスは洗練された新しい店舗が続々とできて、すっかりおしゃれなイメージが定着しているように見えるのですが、欧州では、少なくとも私が見た限りのスペインでは、ちっとも洗練されたおしゃれなイメージは感じられません。

散らかるゴミ、ベタつくテーブル、破れたソファー、汚いトイレ。

私はスペインで2度ほど、スターバックスを利用したのですが、高くて汚くておいしくないことに少し悲しい気持ちになって(おいしくないんです)、それ以来利用していません。

ではコーヒーを飲みたい時にどこに行くのかというと、地元密着のこじんまりしたカフェやバーに行きます。スターバックスよりも(スペインでは)おいしくて安いので。

コーヒーを注文して飲む、というのはシンプルな行為だと思います。ただ、コーヒーには、それぞれ人によって好みの飲み方がありますね。そうですね?

エスプレッソだったりアメリカンだったり、デカフェだったり、豆乳だったりアーモンドミルクだったりオーツミルクだったり、砂糖を入れたり、ホットかアイスか選べたり。好みでカスタマイズできたりしますね。

スペインでは冷たいコーヒーはあまり一般的ではありません。

結構そういう文化(冷たいコーヒーがメニューにない)はあるようで、アイスカフェラテを飲みたいけどすんなり飲めなくて、ベルリンやマルタで店の人とああだこうだとやり取りをしたことがある件について、以前に書きました。

スペインでもアイスコーヒーは一般的ではなく、慣習的には暑い夏であってもコーヒーは熱いままで飲むもの、という感じです。

とはいえ、暑い日に、冷たい飲み物を飲みたくなるのが人の性ですから、アイスカフェラテをどうしても飲みたいことだってあります。

私の相方(通称ブッダ)は、「アイスカフェラテが飲みたいときは、こうやって注文するんだよ」と教えてくれたのですが、その形式が私はずっと納得できずにいました。

その形式とは、通常の熱いカフェラテを頼む時に合わせて「氷ください」と言うのです。

つまり、熱々の従来のカフェラテが入ったカップと、氷が入った透明のグラス、二つのアイテムが目の前に出てきます。熱々のカフェラテを、自分で氷が入ったグラスに移し替えて、マイ・アイスラテを作るシステムです。

塩むすびを注文して、海苔もください、と言うような。卵かけご飯を注文して、牛皿もください、と言うような。

自分で混ぜるなら、最初からコップにカフェラテ作って、そこに氷入れて持ってきてくれたら良くない?カップとソーサー、洗い物、余計に出てない?

カフェによっては、氷が入ったグラスが明らかにカップのコーヒーを全て受け止めるには小さすぎて、移し替える時に溢れそうになることもあります。

たっぷり湯が入った湯船に先に浸かりたくて「いけるかな」と思って足を入れ腰を屈めると溢れそうになり、「あ、やっぱりダメか」と一度出て、頭を洗って湯船のお湯を減らして入り直す、みたいな工程が生じます。

さらに、熱々のコーヒーと氷は、猛暑の日にアスファルトに氷を落とすようなものですから、アイスカフェラテは水っぽい味になります。

不思議でした。私はこの形式を解せずにいました。いつもこの「氷別グラス」システムにぶつくさいいながら飲んでいました。

いつも不機嫌でぶつぶつと同じ文句を繰り返し言う老人のように、なぜ最初から冷たい牛乳と氷を入れたグラスにコーヒーをサッと入れてくれないのかと。何がそんなに難しいんだ、と。

しかし物事には道理があります。私のピーナツ大の脳みそで考えることは、人々はとっくに知っています。

このシステムは、砂糖を使う人が、まず熱いコーヒーで溶かして氷に入れるため、というロジックがあったのです(最初からわかってました?)。私は自分が砂糖を使わないので気づかずにいただけでした。

日本ではアイスコーヒーにはシロップが使われていますが、そういえば、欧州で暮らす間にガムシロップを見たことはないかもしれません。

「私は砂糖は使わないので、カップなしでいいです、氷入れたグラスの方に直接冷たい牛乳とコーヒーを入れちゃってください」と注文するのは、私の言語能力では困難ですし、そういう文化ではない場所でそんなややこしいことを注文しても店員さんにを困惑させるだけです。

ですから、私はいつも「洗い物が増えるなぁ」と思いながら、熱いカフェラテを、氷の入ったグラスに移し替えた水っぽいアイスカフェラテを飲んでいました。

しかし、相手の文化の範囲内で、冷たいカフェラテを注文するのに、まだ改良の余地がありました。

ある時、他の人が「カフェラテと氷、ミルクは冷たいのにしてね」と注文しているのを聞き、私は、そうか、そう注文すれば、熱々に熱されたミルクではないから、グラスに移した時に水っぽくなるのを防げるのか、と気づきました。

それでも、日本で慣れ親しんだアイスカフェラテの味とは何かが違います。もう冷たいのが飲めるんだからいいじゃないか、とブッダのように、黙って飲めばいいのでしょうけど。

ネチネチとこねくり回すのが私の性分なので、もう少しカフェラテについて言わせてもらいますと、スペインでは「カフェ・コン・レチェ(牛乳入りコーヒー )」がカフェラテに当たるのですが、実際のところ、スペインのはコーヒーの分量が多く牛乳が少ないので、我々が思い描くカフェラテの味より濃いのです。

それゆえ、もし、私たち日本人が思い描くカフェラテを飲みたい場合は、「カフェ・コン・レチェ、コルト・デ・カフェ(牛乳入りコーヒー 、コーヒー少なめで)」と頼まなければなりません。私はスペインに住み始めてしばらくは、このように注文してました。お店の人は、「はいよ」とすんなりコーヒー少なめ牛乳多めで作ってくれます。

しかし、アイスカフェラテでこれを頼むのは長いですね。「カフェ・コン・レチェ、コルト・デ・カフェ(牛乳入りコーヒー 、コーヒー少なめで)コン・イエロ(氷もください)」と頼むのは。長い。しかもそれに加えて「レチェ・フリア・ポルファボール(牛乳は冷たいのにしてね)」なんて付け加えたら、字余りもいいところ。

そんな厄介なことを頼むのはさすがに気が引けます。だってスペインの庶民的な店でのカフェラテは1.6〜2.0ユーロ(約250〜300円)で、とても安いので、嫌がらせのような長い注文をするのはお店の人に気の毒で、厚顔無恥な私でもいくらなんでも憚られます。

若い人がやっているような最近の洒落たカフェにはメニューに「アイスカフェラテ」が存在していることもあります。時代は変わってきていますね。アイスカフェラテの黒船来航、グローバル化の波がやってきています。

ただ、そういうお店のアイスカフェラテは4ユーロ(約600円)くらいするので、庶民的な店でのカフェラテ+氷の倍の値段。もちろんおいしいのですけど。おそらく、牛乳と氷を多く使ってるからという理由だと推測しますが、なかなかのバブルです。

アイスカフェラテバブルを避けたければ、「牛乳入りコーヒー 、コーヒー少なめで、氷もください、牛乳は冷たいのにしてね」というお願いの数珠つなぎが必要です。お店の人に疎ましがられるリスクが生じます。

思ったのですが、黙って、多くを求めず、現地のやり方、現地の味をさっさと受け入れたほうが色々まるくおさまりそうです。

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