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日本人だから知ってるでしょ?発酵食品、南の島編

日本人だと分かった瞬間に、いろんな質問をされるのだけれど、その質問の8割9割は私は答えられない。いつも全身の毛穴が一気に開き、冷たい汗がふき出る。

スペインの田舎にある個人経営のレストランでシェフと会話した時のこと。友人の友人であるシェフは、地元料理を出し、市場で仕入れた新鮮な食材でシンプルに調理する。

彼女(シェフ)は「日本の料理とも共通するよね。新鮮さが大事。食材を活かせばそのままでおいしい」みたいなことを言っていた。

私が入店した時、彼女は「日本人なの?イラッシャイマセー!」と元気の良い寿司屋のように迎えてくれた。昔、東京の和食店で働いたことがあるそうだ。

入り口で立ち話しながら彼女は「Kojiの作り方知ってる?」とスペイン語で聞いてきた。

Koji? Kouji? こうじ、、、麹。

日本人なら麹の作り方知ってるでしょ?ということだ。

麹の作り方知ってる?

麹の作り方?私は目を開いて天を仰いだ。麹づけとか塩麹とか、食べたことはあるけど、作ったことなんてない。

私は生きていく最低限の料理はするけれども、特に料理が好き、というわけでは全然ないので、とっても無知です。

「麹、、、知らないです。はっ発酵だよね」と英語とスペイン語で私は言った。麹が発酵食品であることは知っている、というのを私は示したわけだけど、なんの助けにもならない。

そっかー知らないかー残念!という感じで、彼女はコミカルに拳を振った。

また、彼女は「世界各国の南の地域に住む人たちのドキュメンタリーを見たんだよね。共通して長生きでね、共通点は、たくさん自然な食べ物を食べて、主に野菜ね、そして“イキガイ”(ここ日本語)があること。知ってるでしょ“イキガイ”。それでね、オキナワが出てきたんだよ。オキナワの代表的な食べ物って何?」とスペイン語で聞いた。

沖縄の代表的な食べ物とは?

沖縄の食べ物と聞かれて、私の頭の中には、ソーキそば、ゴーヤチャンプルー、海ぶどう、豆腐ようが、手をつなぎ焚き火の周りを輪になって踊っていた。

だけどそれをスペイン語でどう説明するのか、知っている単語で何か表そうと思っても何も口から出てこない。私の頭の中は完全にショートしていた。

自国の食べ物について質問されて、壊れたおもちゃのように目を見開き、口を半開きで停止する私に対して、彼女は「何をよく食べるの?野菜?ペスカド(スペイン語で魚)?フィッシュ?」とたたみかけて言った。

彼女は私が質問がわからなくて答えられないと受け取ったようだが、質問はわかっている。だけど、「ゴーヤチャンプル」のゴーヤをスペイン語でなんと言えばいいのか、そして、沖縄の代表的な魚の名前は、私は日本語でも知らない、、、。

私は絞り出して「ゴーヤ、、、キュウリみたいな、でも味が強い、、、」とスペイン語で言ってみたけど、もちろん伝わらない。

彼女は「よくツケモノにするやつ?長いやつ?」と言った。それは、おそらく瓜(ウリ)のことだろう、ちがう、と私は言って頭を抱えた。

スマホで検索して見せれば早いではないか、とあなたは言うかも知れない。

私だってもちろんそう思ったのだが、その山間の小さな集落にあるその店は、電波が悪く、インターネットにつながらなかった。

現代の魔法が使えないのだ。しゃべれない上にネットが使えないとは、どうしようもなく非力だ。

「ネットつながらないけど、会話するんだよ、いいでしょ」と彼女が最初に言っていた。

素敵なことだと思う。レストランとしては。だけど、おかげで私は沖縄の食べ物についてスペイン語で語るという難題に、ひっくり返った亀のように困っていた。完全に座礁していた。

「絵を描く?」と彼女は笑った。もちろん冗談である。人々は絵を描いて説明するほど待てない。会話はリズムが重要だ。

「海藻たくさん食べるんだよね。海藻の養殖も見たよ」と彼女は言った。

私は声が出ないまま、頭をぶんぶん振って、そうだ、と頷いた。

「ブドウみたいな海藻が沖縄では有名だ」と私は言った。これも、スマホで見せられれば話は早いがそれはできないので、「形がブドウみたいで、、、」となんとか説明する。

「それなんて名前なの?」と彼女が聞く。「海ぶどう」と私は答える。

「ウ・ミ・ブ・ド・ウ」と彼女は繰り返して、ふーん、と頷く。

もずくの天ぷらとかもおいしいよね、と思うものの、私はもうもずくの説明なんてできない。

相手が知らない食べ物を、相手の言語で、語彙力のない人間が説明するというのは、とても難しい。

それがどんな形でどんな味か知らない人に伝えるというのは、スターウォーズを全く観たことがない人に対して、なんとか惑星のなんとかというキャラクターが身につけていた靴下の話、をするくらい、「知らんし」「わからん」という顔をされる。

途方もなく、そしてぜんぜん盛り上がらない。

ゴーヤチャンプルとか海ぶどうとか、難儀なこと言わずに、ソーキそばが沖縄は有名だよ、って言えばよかったのか?いや、でもソーキそばも、いったいどうやって説明するの?

スープにヌードルが入っていて、豚の角煮が載ってるって、海外の人も馴染みのあるラーメンとも蕎麦とも、うどんとも違うって、何て言う?私はわからない。

「沖縄の食べ物はけっこう他の地域と違うの?」と彼女は聞いた。

「うん、かなり食べ物も文化も違うよね。もともと別の国だったしね」と私は答えた。

「別の国だったの?日本が侵略したの?」とさらに聞かれた。

どうやって琉球王国が日本に統合されたのか。

琉球王国はどうやって日本になった?

「侵略、うん、、、」と私は言ったものの、どうやって琉球王国が日本になったのか詳しい説明はできなかった。歴史の授業で習ったんだろうけど、私は鳩くらいの脳みそしか持ち合わせないんだから、さっぱり覚えていない。

せっかく「日本人なら」と話を振ってもらっても、いつも汗びっしょりになり、慌てて変なことを口走ったり、押し黙るだけです。

瞬間的に日本代表になった私は、日本に関する話題を瞬間的に冷却し、各地でずさんな情報をばら撒いています。日本の魅力を強力に発信したい各所の方々、そして沖縄の人々、すみません。

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