適当にうなづいていると頼んでないものを買ったり、坊主になったりする
何を言われているかちゃんと聞かずに適当に「ハイハイ」と言っていたら、買ったつもりのないものが袋に入っていた。
最初は「おまけかな?」と都合よく解釈したのだけど、もちろん違った。
スペインの島に住んでいる私のスペイン語は死なないレベル、生存可能な最低限のクオリティです。人々は優しいから無事生きてこれたけど、当然、誤解や間違いもなくはない。
その日、買ったものはコンタクトレンズだった。私は視力検査で表示される隙間のある輪が、最上部の最大のやつでもぼやけたドーナツに見える。
メガネのレンズは分厚くて重たくて、それらを支えるフレームによって鼻が陥没して耳がちぎれそうになるから、コンタクトレンズを買う。
乱視もある私のレンズは店に在庫がなく、遠くからこの島に船なのか飛行機なのか知らないけど配送されてくる。1週間後に連絡があり、メガネ屋さんに受け取りに行った。
料金をカードで支払い店を出たあとで、ふと、注文時に聞いていた料金より高い気がすると気がついてレシートを見たら何か読めないものが2点加算されていた。紙袋にはコンタクトの保存液が2本入っていた。買ったつもりないのに。
きっと精算の時に「液もご入用ですか?」と聞かれてたのだろうと想像するけど聞き取らずに「ハイハイハイハイ」と頭をブンブン振っていたのだろう。
8.6ユーロ。いつもはもっと安いのをスーパーで買っていたのだけど、返品という行動は、ものぐさ精神により相殺され、まぁいずれ使うしいいか、とすぐに諦めた。
また、死なないレベルの語学力で美容院に行ったら全然意思疎通できてなかったこともある。頼んでないパーマをされそうになった。
美容院の予約の電話は私にはハードルが高い。だから、地図アプリで適当に調べた徒歩圏内美容院に歩いて行き、「リザベーションを取りたい」「カットだけ」と言ったつもりだった。
後日、予約した日時に行くと、美容師のお姉さんがゴム手袋をして小さなカップに液体を混ぜながら私の席に来た。私は慌てて「えっ、あの、カット、カット」と主張すると、「は?パーマじゃないの?」とお姉さんは驚いていた。私も驚いた。
後からわかったのだけど、私が言ったスペイン語の「reservar(予約する)」をお姉さんは「rizado(カール、縮れた)」と誤解したようだ。お姉さんが聞き間違えたというとお姉さんは心外だろうから、私がちゃんと言えていなかったのだ、そうに違いない。
お姉さんは予約台帳にパーマ用に2時間とか3時間とか時間をとっていたのだろうから申し訳ないけど、だからといって私も髪を切りに来たのにパーマして帰るわけにはいかない。ピザまん食べたかったけど肉まんしかないから妥協した、とは話が違う。
その美容院での行き違いはまだ続いた。美容師さんは前述のお姉さんから、英語ができるというおばさんに変わった。
私はその時、完全に坊主にするのか、ベリーショートにするのか、決めかねていた。ロングヘアだったのだけど、一度丸坊主を体験してみたかったのだ。
しかし、私は父親ゆずりで顔がでかいもので、頭部と顔面の全てが剥き出しになることが懸念事項だった。
まずベリーショートの長さにしていけそうだったら、坊主にするというふうに言おうと思って、写真を準備していた。
だけどお店のおばさんは、用意していた写真を見ず、「大丈夫、大丈夫、私に任せなさい」と言ってバリカンであっさり刈り始めてしまった。芝生を勢いよくバリバリとキレイさっぱり刈り込むように、ちゅうちょなく、全くベリーショートの長さを残さず。
私の説明はちゃんと聞いてくれなかったけど、おばさんはプロだ。気遣いはある。「女の子だからね」と僧侶のようなツルツルにはせず、数ミリ長さを残して、頭頂部は少し長めの丸刈りにしてくれた。
刈られたものは仕方ない。砂の山を指でゆっくり崩していたような私の迷いを、おばさんがブルドーザーで一気に取り除いてくれたのだ。感謝しよう。
適当に何でもうなづいていると、思わぬ方向に流されることもあります。
こういう体験をきっかけに、ちゃんとやり取りできるレベルになろう!と勉強に励めばいいのだろうけど、そうはなかなかいかない怠惰な人間です。
ちなみに坊主自体は気に入ったのでそのあと1年以上続けました。その美容院へは再び行かなかったけど。