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日本人だから知ってるでしょ?春の雪と海の岩

「日本に旅行に行くんだ」と嬉しそうな人が私に日本各地についての質問してくれるのだけど、私はほぼまともに答えることができない。

聞かれる日本の質問の95%以上がわからない。

私は逃げも隠れもできない純アジアン顔。薄茶色の平たいフェイスにスモールな目でおどおどしている。だけどどこの国の人かまでは特定できないから「どこからきたの?」と聞いてくれる。

そして私は「日本です」と答えると「今度日本に2週間行くんだよー」と話のボールを投げてくれる。

そして私はいつもうまく受け取れず、走って玉拾いをするか、身体で受けて青あざを作る。

4月の雪

ガラスみたいな透ける目にブロンドのロングヘアの若い女性が、

「4月に日本行くんだけど、雪見れるかしら?」

と英語で聞いてきた。彼女は雪が降らない土地に住んでいるから、雪を見てみたいのだろう。

4月に雪が見られるか?4月上旬ならまだありそうだけど、下旬だったらどうだろう。

「北海道とか北の山の方に行けば見られるかも」と私は答えた。

彼女は「北海道に行けば見られるのね?」と確認してきた。

「うん、たぶん。早いうちならまだ残ってそうだけど」と私は言った。知らないけど、たぶん、そうですよね?

とは言うものの、北海道ってでかい。どこに行って雪を見るんだろう。

東北の方に旅行する外国人も多いとどこかで聞いたから、東北の山の方でも見られるかも、と付け加えようかと思ったけど、もう話題はすっかり別のことに変わっていた。

そう、いつも、聞かれたことをスマホで検索して答えを見つけた頃には人々の興味は失われている。話はどんどん進んでいく。私はそのスピードに決まって間に合わない。

動き出した電車の窓越しに会話をしているような感じで、私はプラットフォームを走りながら、スマホで調べて答えようとする。そして足がもつれて転ぶ。

私の頭で考えるスピードはみんながおしゃべりするスピードに全然並走できない。

手や首に所狭しとタトゥーが入った青年に、柔らかい声とにっこりと優しい笑顔で、「来年日本に旅行にいくんだ」と話しかけられた。前にも行ったことがあるから、大都市よりも、地方を見て回りたいのだと言う。

「この岩を見に行きたいんだ。行くの難しい?この岩ってどのくらい大きいの?」とスマホの画面を見せてくれた。

私は彼のスマホに表示された写真をのぞき込んだ。

2つの岩が海の中にあり、その両者をしめ縄でつながれている。

あぁ、これは、前にも外国人に「行きたい」と言われたことがある場所だ。

ご存じでしょうか?伊勢の夫婦岩。私は日本に住んでいる間に夫婦岩について知らなかったのだけど、なぜか外国の方々の間では人気があるようで。

三重県伊勢市二見興玉神社にある夫婦岩
伊勢の夫婦岩(二見興玉神社)

この岩を見に行くのが難しいか、どのくらい大きいのか、と彼は私に聞いている。

私は言わなくていいことを言ってしまう達人なので

「その岩だけを見に行くの?岩は写真で見て思ってるより大きくないよ?伊勢神宮も行くなら泊まりで見て回る価値あるかもだけど、その岩だけだと交通不便だし、どうかな」

と聞かれてもない余計なことを言った。

キャンプファイヤーを囲んで、みんなが、顔が熱いねフフフ、と楽しそうに話していたところに、ツカツカとやって来て火にバケツの水をかけるような嫌な奴だ。だから人望がないのだ、私は。

「この岩はそんなに小さいの?上に鳥居があるところまで歩いて行けるの?」と彼はやっぱり行きたいようで、さらに私に聞いた。

「歩いては行けないと思う」と私。しめ縄を交換する人は岩に登るだろうけど、参拝客はそこまで行かないでしょう、対岸から見るだけだよ、とは、スピードの速い会話の中でとても言えなかった。

あの大小の岩が海を背景にしめ縄でつながれている、という写真は、もしかしたら、ニューヨークの自由の女神(湾内の島に建てられた)とか、フランスのモンサンミッシェル(小島に建てられた修道院)みたいに、登れるものだと思われているのかもしれない。

海を背景にデカいものがそびえ立つというのは、ドラマティックで、人間を惹きつけるものがあるのかもしれない。

夫婦岩の大きい岩の頂上には鳥居があるから、あの鳥居が人間がくぐれるものだと思うと、確かにあの岩はとても大きなものに想像できる。

かなり角度の急なロッククライミングな参道になるけど。

行きたいんだから行かせてあげればいいじゃないか。日本人に人気の伊勢神宮については、説明しても知らないようでポカンとしていた。

三重県は新幹線が通ってないし空港もない。関西方面からか名古屋の方からか電車で行けるよ、と私は答えた。

「パーフェクト!大阪か京都から日帰りしよう」と彼は言っていた。伊勢の皆さんうまく宣伝できずにごめんなさい。

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