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原付バイクが壊れて大騒ぎして学んだこと

海外で徒歩と交通機関で生きている私が、スペインで125ccの原付バイクを1週間レンタルをしました。

日本で20年以上前に、50ccの原付バイクに乗っていたことはありましたが、それぶりです。正確には1999年とかでしたから、まだ20世紀、平成の前半、小渕総理の時代、消費税が5%だった頃です。それから四半世紀経って、いきなり異国の地で、熱いアスファルトの上を、手首に時計の日焼けを作りながら、高速道路の排気を吸い吸い走ったのです。

ちなみに、私は125ccのバイクが乗れる二輪の免許は持っていません。日本の普通自動車免許(AT限定)をEUで切り替えて持っています。スペインには、「車の免許発行から3年以上経っとるの?じゃあ125ccも乗っていいけんね」という気前の良いルールがあるので、125ccの原付バイクを借りることができました。

繰り返しになりますが、私は一度も125ccのバイクに乗った経験はありませんでした。それなのに、なぜ、勇敢というか無謀に挑んだかというと、行きたかった場所が交通機関がなく、自分で足を調達せねばならなかったからです。

初めて海外でレンタルバイク、そして20年以上ぶりの運転、もちろん、問題が起きました。無知がもたらしたトラブルについて書きます。

2024年5月スペイン南部フラメンコ発祥の地として知られるアンダルシア地方、イスラム建築が有名なSevillaという街に行きました。Sevillaは日本語ではセビリヤとかセビーリャとか書かれていますが、私が耳にする現地語では「セビヤ」なので、ここではセビヤで書いておきます。

行きたかった場所はセビヤの中心地から車で30分ほど離れており、道路と茶色い土が広がる基本的に旅行客が見たい物は特にないエリアです(失礼)。所々にある住宅街とスーパーを見物するのが好きなら話は別ですが。よって、多くの人々は車で生活している郊外です。

なぜ車ではなく、原付バイクのレンタルを選択したかというと、理由は2つあり、まず料金が安いから、と、もう一つは迷った時にすぐ路肩で止まれるからです。

125cc原付バイクの7日間レンタルはオプションの保険もつけて119ユーロでした(執筆時点で2万円くらい)。車を借りるより、レンタル料金が半額くらいで済みました。

私は目的地に着いたらスーパーに行く以外に出かける予定がなかったので、1週間借りた中で乗ったのは実質4日くらいでした。だから、高いお金を払って車を借りたくありませんでした。

そして、2つ目の理由、迷った時にすぐ路肩で止まれる、というのは、交通ルールがちゃんとわかってないので、駐車が許される場所や一方通行、そして馴染みのない信号のないラウンドアバウト(環状交差点)など、車だともろもろ不安があります。

もちろん、それらの交通ルールはバイクだって同じなわけですが、常に道路の端っこを走って、わからなければ、バイクは車よりもどこでも止まりやすい、そして、違反切符を切られる可能性も車より低いだろう、と考えたからです。道を曲がる時だって、車線変更に困ったら、二段階で曲がってしまえばいいのです。

ちゃんと交通ルールわかってから車に乗る、という慎重な考えは私にはありませんでした。

ナビなしでは目的地まで辿り着けませんから、私はジョギングをする人が腕にスマホをつけるアームバンドを持参して、それを手首に巻きつけ、Googleマップで道案内を表示しました。素晴らしいとは言えない案ですが、まあまあ見えます。一つだけ、問題だったのは、アームバンドは二の腕に装着するサイズだったので、さすがに私の手首は二の腕ほどたくましくなく、ゴムバンドは回転してズレてしまうことでした。しかし、幸い、高速道路に乗って直進が多かったため、スマホがズレるたびに体に擦り付けて位置を直してなんとかなりました。

目的地は、郊外にある犬の保護施設でした。さっさといけば30分くらいで到着するところを、もたもたしながら行ったので、40〜50分くらいはかかりましたが、無事到着しました。

私を迎え入れる犬の保護施設の人は、「本当にバイクで来たの?」と眉をあげて驚きを見せました。それくらいバイクに乗ってくる人は珍しく、施設の駐車場には私の原付バイクがポツンとある以外は車のみでした。

翌日、スーパーに行こうと、35度を超える暑い中、屋根も木陰もない駐車場で、原付バイクの鍵を回してスタートボタンを押すと、「シュルシュルシュルシュル」と力無い音だけで、エンジンがかかりません。

灼熱の中、ヘルメットを被ったまま、「シュルシュルシュル」と冴えない音を何度も出しているアジア人を見て、日陰で休憩していた犬の保護施設の職員の男性2人が、「かからないの?」と助けに来てくれました。2人ともハンドルを握ってスタートボタンを押してみますが、バイクは全く働く気はなく寝たふりを決めています。

「レンタルした会社の電話番号ある?」と若い方の男性が助け舟を出してくれ、貧弱なスペイン語で電話会話ができない私の代わりに問い合わせてくれました。追加で払っていた18ユーロ保険のおかげで、ロードサービスがすぐ提供され、まもなくしておじさんが運転するトラックが1台やってきました。

トラックから降りてきたおじさんも、バイクの「シュルシュルシュル」ミステリーの謎は解くことができず、おじさんはバイクを荷台に乗せて走り去っていきました。

レンタル原付バイクとロードサービスのおじさん

すぐにレンタル会社から電話があり、「新しいバイクを用意するけん、タクシーに乗って取りに来んさい。タクシー代も保険でカバーされるけん」と言われました。このやりとりも、ナチョという若い男性職員が代わりに会話してくれました。

「僕、今から家に帰るところだから、車で乗せてってあげるよ。タクシー呼ばなくていいから」という親切なナチョの言葉に甘えて車に乗りました。「犬?飼ってるよ、4匹。ダックスフンドでね、親と子。ファミリーなんだよ」とナチョ。私の絞り出したスペイン語で会話しながら、街中のレンタル会社まで運転してもらいました。

目的地付近に着いた時に私のスマホが鳴り、レンタル会社からだったので、車を停車させたナチョに通話を頼みました。先ほどロードサービスで運ばれていったバイクがチェックされたようで、電話を終えたナチョは私に「ハナ、バイク、故障してなかったんだって。スタンドが1本足だとエンジンがかからなくて、2本足スタンドの方にすればかかるんだって」と説明しました。

故障してなかった?スタンド?かれこれ2時間くらい大騒ぎしてきたのに、壊れてなかったの?混乱しながらも、私はここまで乗せてくれたナチョにお礼を言い、レンタル会社へ走りました。

レンタル会社でも同じ説明をされ、私は初めて、バイクのサイドスタンドで停めているままではエンジンがかからないこと、二本足でガッチャンと停めるスタンドか、スタンドを外した状態でないとエンジンがかからないということを知りました。たったそれだけのことだったのです。

コンビニの三角おむすびのビニールを頭頂部から引っ張って開ければ、スパッと左右に開いて、パリパリの海苔ですぐに食べられるのに、それを知らないと違う場所から開いて、おむすびが全開になってしまうような、知っていればなんてことない簡単なことも、“知らない”というのはそういうことなのだなと。

後から冷静になれば、ロードサービスを呼ぶ前に、「スクーター、エンジン、音する、かからない」とネットで調べてみなかったのか、と考えられるのですが、その時は、レンタル会社に電話するのが一番だと思った、他の人が試してもダメだから壊れているの確定だ、という先入観が満載でした。私を助けてくれようとしたナチョも他の職員さんも、ロードサービスのおじさんも、みんなそんなバイクスタンドの仕組みを知らないくらいの車社会なのでしょう。

それに加えて、36度か38度かあったその日、日陰のない駐車場でバイクを触るのが猛烈に暑くて、早くなんとかしたいと焦っていた、そして判断力はおしっこに行きたくて膀胱が崩壊しそうなのにトイレが見つからない時くらい低下していたのです。

実は、ロードサービスが来る前に、私は相方に電話をして、「ついてないよー」と状況を話していました。相方は「どうなってるの?見せてごらん。通話をカメラにして」と言ったのですが、私は「もういいよー、他の人が試してもダメだったし、もうロードサービス呼んだし、追加料金もかからないから」と言って、相方に見せませんでした。

しかし、原因がスタンドだと分かってから、電話をしたら「知ってたよ。そういう安全装置がついてるバイクあるから。だからビデオ通話で見せてごらんって言ったでしょう」と。相方は中型か大型化知りませんが二輪の免許を持っていてバイクに詳しい人なのです。なのにその詳しい人の言葉を私は無視していたのです。

愚かな私は「知ってたなら、もっと強く言ってよー」と喚いてみましたが、「いい勉強になったね。今度からは人の助言には耳を傾けたまえ」と相方。ロードサービスで運ばれた同じバイクを再び私は乗って施設に帰りました。

壊れていないバイクを壊れていると思って大騒ぎをした2〜3時間でしたが、分かったことは、人々は親切であること。初対面のどこの馬の骨とも知れないアジア人を無償の親切心で助けようとしてくれました。

この優しい人々が働く施設についてはこちらの記事に書いています。

そして、慌てて解決策への近道だと思えるものに早急に突き進まないこと、まずは一度涼しい場所に移動し冷静に調べてからで遅くないこと。不快な環境下では人間は早くその状態から逃れたいばかりに、間違った判断をしてしまうようです。火破りとか、極寒のシベリアで木に縛り付けられて放置されるとか、蚊がいっぱいいる部屋に閉じ込められるとかされたら、やってない罪をやったって言っちゃうだろうなと思います。

最後に、その道に詳しい人の言うことには一応耳を傾けること。突っぱねずに、一応、聞いてみる、というのを肝に銘じます。

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