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欲しくないプレゼント

プレゼントをもらうことは難しい。

多くの人にとってはモノをもらうのは嬉しいことなのだろうと認識しているのだけど、自分が受け取るとなると結構困る。

とくに、欲しくないモノをもらった時、どうしたらいいか真剣に困る。

人々は「ほしいと思っていなかったモノ」をもらった時、いったいどうしているのだろう。

贈り物とは相手の厚意や親切心の表れであって、モノが何であれ、受け取り側は感謝を述べて、その気持ちを受け取るのが正しい在り方だと理解している。

最近、欲しくないモノをもらって私は考え込んだ。

ある週末に行われていた小さなお祭りのようなものに行った。若いアーティストやミュージシャンが集まって手作りでやっていたイベントだった。

その中で、知人がプログラミングをしたというビデオゲームを展示していた。私は全くゲームに無知である。

だけどそのゲームは原始的と呼べるような、左から右に進み、向かってくる障害物を撃ち、集めるべきものを集めてポイントを獲得するというシンプルなものだったから、私もやってみた。

全くゲームをしない私がプレイすると、周囲がざわついて人垣ができて、驚くような得点を叩き出して、眠っていた才能が開花した!とは、もちろん全くならなかった。ミラクルは軽々しく起きない。とても低い得点で終わった。

2人でもプレイできるということで、他人の力を借りて何度かやったところ、わりと高得点を記録し(当然ながら一緒にプレイした人の全面的な活躍で)、それまでプレイした人たちのランキングの4番目に表示された。かなりの上位である。

すると次にプレイしたいと私の後ろで待っていた小さな女の子が、「4位になったの?じゃぁこれあげる!」と星をくれた。厚紙のような硬い分厚い素材でできたしっかりした星である。オレンジ色にキラキラと光っている。そしてなかなか大きい。

正常な感性を持ち合わせた成人であったら、「あら、かわいい」と少女の厚意に対して微笑ましく思うのだと私は想像する。

私も一応、社会の中で年月を重ね、適切と思われる対応を頭では理解しているつもりです。

お礼を言って嬉しそうに受け取るのが、この場で大人が取るべき態度だと思ったので、重みのある星の角を握りしめて、笑顔で「ありがとう」と言った。

だけど私は真剣にどうしようかと考え込んでしまった。

星はポケットやサイフに入るようなサイズではない。かなりでかい。機内持ち込みカバンサイズじゃないと入らない大きさである。

持って帰っていったいどうしたらいいんだろう?壁にはかけたくないよ。書棚に横たわらせる?引き出しに入れる?いつまで保存して置いたらいいの?どのくらい後なら捨ててもいいの?

全然欲しくないよ、この星。でも、さすがに、少女の目の前で忘れたふりをして星を置き去りにすることはできなかった。とりあえず星を持ってしばらく過ごした。

移動するたびに手に持って回るのは正直わずらわしかったけど、もし今その辺で捨てるのを少女に見られたら、彼女の心に大きな傷をつけるかもしれない。

大人を信じられなくなるかもしれない。知らない人に親切にすることが一生できなくなるかもしれない。中年アジア人女性恐怖症になるかもしれない。

うーん困った、じゃまだなぁと私はずっとその星を握っていた。私の考え込んでいる姿を見て、同居人である相方が「うちに持って帰らないからね、それ」と言った。持って帰らなくていいのか、と少し私は義務感から解き放たれた。

しかし、いつどうやってこの星を手放して帰ればいいのか。モノを手放すのって難しい。断捨離で人々が苦労しているのが身に沁みる。

一度自分の所有物となったものを無価値なものと判断してゴミ箱に葬るのは心が痛む。それが他人が介在したものとなると、なお困難になる。それが純真無垢な少女からの贈り物となると、捨てるなんて私はひとでなしの鬼のようではないか。

私と相方は、待ち合わせをしていた友人であるアルゼンチン人カップルと合流した。女性の方が、私が持っている主張の激しいオレンジの大きな星を見て「それどうしたの?」と聞いた。

相方が「ゲームで高得点になって、それを見ていた順番待ち中の女の子が星をプレゼントしてくれた」と説明して、あまりスペイン語が話せない私は「どうしたことか」と顔で語った。

友人は「まあ、かわいいわね!ステキじゃない!」と言って、興味深そうに星を手に取った。

しげしげと星を眺める彼女を見て、とっさに私は「これはあなたへのプレゼント!」と言って押しつけた。プレゼントのたらい回し。

捨てるのは心苦しい。だけど、人にあげるのは罪悪感が薄れる。そのモノをどうするかの責任はもらった人に移行するのだから。

星を急に押しつけられた彼女は、「え!ひどい!あなた悪いわね!」と体をよじって笑っていた。

私はそのあとに彼女がその星をどうしたのかは見なかった。知らない方が私の心が安らかでいられる。私は無罪放免、無責任でいられる。そのモノの権利はもらった人に委譲されたのだから。

私は少女から受け取った厚意をどうしたらいいかも決められない人間で、やり場のわからないその厚意に困惑し、欲しがっていない友人に押し付けた。私はそういう人間なのです。

きっとあの少女は5分後には、アジア人のことも、あげた星のことも忘れたはず。そう思うことにする。

ぜひ私にものを与える時は食べ物だけにしてください(ビールやワインも受け付けます)。

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