
お料理教室1日目 #旅するエプロン タイ バンコク編Vol.3
ピムさんのお店を後にして、向かった先はこれから私が5日間お世話になる料理教室だった。
集合時間よりも20分も早く到着した私に、「相当楽しみなのね!」と、
少し冗談を言いながら受付の女性は快く、私を待合室に通してくれた。
階段を登り、誰も居ない部屋を覗くとそこに広がっていたのは
あまりにも高級な設いのレストランだった。

多くの人は1日だけの体験で終わるところを、私は20種類の料理が学べる5日間のコースを選択した。
ボーッと窓の外を眺めながら待っていると、次々とクラスに参加する人がやってきた。
メキシコ、アメリカ、台湾、ベルギー、そして日本。
皆と挨拶を交わし、早速ガイドさんに連れられて近くのマーケットへ行くことに。

マーケットではタイ料理に使うハーブや食材を実際に手に取り、
香りを嗅いでみたり、少しかじってみたりして味を探索した。
バジルひとつにしても、私は今まで1種類だと思い込んでいたが
どうやらここではそうじゃないらしい。
日本ではパウダーでしか見れないターメリックも、ここでは生で売られている。
ちなみに、初めての生ターメリックに興奮し、ずっと香りを嗅いだり
食材を触っていた私の手は未だに黄色いままだ。

ガイド曰く、タイではスーパーで食材を買うより、このようなマーケットの方が新鮮で美味しい野菜たちを安価で買うことができるとのこと。
肉を買うならあの人のとこへ。野菜ならあの人のとこ。
そうやってお店を選ぶことが私はなぜか少し、ロマンチックにさえ感じた。
日本に居ると、食材を買うのはほとんどスーパーになる。
必要なものをただ、買うだけ。
でも、こうやって市場に来ると 店のオーナーの顔を見て、
今日の野菜は何がおすすめか、どんな料理に合うのかと世間話をすることになる。
そうやって関係を築いていける距離感に、私は憧れているのかもしれない。
市場の空気に触れて、ふと 昔、祖父に連れられてよく街の電気屋さんに行ったことを思い出した。
祖父は電池ひとつ買うのにさえ、その人のお店に行き あれやこれやと世間話を楽しんでいた。
子供の頃は「また始まった!どうでもいい話だ〜」と、思いながら
毎回、祖父が話終わるのを待っていたが、今になって思う。
祖父は毎回、"物を買うだけ"を選択するのではなく、 "あの人から物を買う"と
いう選択をして、その時間を楽しんでいたのだろう。
今の私が生きる社会にはあまりない、消費者と生産者の温度を感じる関わり方。
そんな温かさをタイの市場では、感じることができたのだった。

必要な食材を購入した後は、みんなでタイティーを飲みに行った。
蒸し暑い気候は外に立っているだけでも体力を奪う。
少し汗が滲み始めていた体に、冷えたタイティーはピッタリだった。

教室に帰ってからは、4つのタイ料理を学ぶ。
最初に先生がお手本で作り、それを味見し、そして自分で再現する。
タイ料理は複雑だと思っていたが、先生が作っている様子を見ていると
どうやら調理方法自体は簡単らしい。
ただし、タイでしか手に入らないハーブなどの食材を揃えられれば の話。
これを日本で再現するにはどうすれば良いだろう?
そんなことを考えながらノートにメモをとっていた。

実践の調理タイムでは、ひたすら教えられた料理を自分で再現するのだが、
私の隣に居たアメリカからきたマダムのバーバラは見るからに戸惑っていた。
話しかけてみると、この実践調理のペースが早すぎて焦ってしまう とのことだった。
「だったら一緒に作りましょう。」と、自分の調理が終わったタイミングで彼女の手伝いをしていると、彼女は少女のようにクスクス笑いながら
「あなたの隣でよかったわ。プライベートレッスンみたい!」と、嬉しそうに微笑んでいた。
全く異なる場所から来た、年齢も国籍も違う2人。
ただ、"同じ時間に隣に居た" ことだけが2人の共通点だった。
でも、私は思う。
それが旅に出る理由として、十分すぎるということに。