風の街
杜の都と呼ばれる、宮城県仙台市。
4年間暮らしたあの街を思い出すとき、心には決まって春の乾いた風が吹く。
初めての一人暮らし。
誰も知っている人がいない街に
18歳の私は一歩踏み出した。
激しい孤独感は感じなかった。
ホームシックにもならなかった。
ただ、どこへ行くにも何をするにも不安がつきまとう。
私はほんとうに知らない街に来たんだと実感して心が震える。
春の仙台は風の街だ。
毎日強い風が吹く。
埃っぽくて乾いた空気は生まれ育った新潟のものとは全く違っていた。
ちっぽけな子どものまま、風の街に放り出されてしまった。
それでも、めまぐるしく動いていく日々に、不安を抱える暇はなかった。
私が動けなければ、周りが動いていくだけだった。
右も左も分からないまま、
弥立つ心で、風に正面から向かって進む。
歯を食いしばり、春の風の中で意気込んだ。
自転車を漕ぐ足に力がこもる。
皮膚が記憶媒体となって、今でも鮮明に街の空気を思い出させる。
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